2023年5月22日月曜日

今蘇るまでもない巨匠ジェルメーヌ・リシエ

前回最後にちょっと触れたポンピドーセンターのジェルメーヌ・リシエ(Germaine Richier)、終了間近(6月12日まで)なので端折って書きますと:

彼女は第二次大戦の経験からだろう(旦那の故郷のスイスに避難した)、植物や昆虫に生の根源を求めるしかないと思ったようで、樹木から型を起こし、葉を型押したラフで神話的なブロンズ彫刻を作った。これが戦後直後の1940年台後半。スタイルもアプローチも異なるがルーツでは重なり合う現代のエコロジー的美術のスターであるペノーネ(参考投稿)の先を越すこと30年?!

 女性作家だから長年干されていたなんて報道も聞いたが、それは最近の風潮(?)からの歪みではないかな。というのも彼女の彫刻はその表現主義的なパワーある個性的な作品は早くから認められ1954年には女性として初めてパリ市近代美術館(ポンピドーもなかったその頃ではフランスでは最大の現代美術館)で「巨匠彫刻家」として個展がされ、大画廊で南仏サン・ポール・ド・ヴァンスに大きな美術館のあるマーグ Maeght 財団ではいつでも作品が展示されている。逆に旦那さんも彫刻家だったらしいが、彼の作品は見たこともないし(笑)、、、ともかく女性というハンディキャップなんて完全にはねのける才能があった。

それがである、彼女はこの近代美術館での個展の年から癌で衰弱し3年後に56歳の若さでなくなってしまう。これが知らない人が多くなった(かもしれない???)の主な理由だろうが、先に書いたようなシャーマン的、エコロジー的な現代アートの潮流を先取りしたところがあるのが特に今注目される由縁だろう。でもそれ以前に一度見たら鮮明に焼き付く造形性のオリジナリティと力強さが圧倒的だと思うけどな〜。

私は鳥獣戯画を思い出してしまう近代美術館の個展用に彼女が特別に作った作品(54-55)

上の作品の細部:木の枝、樹皮、骨などの型取りしたブロンズから構成されいます

 

 次は私が彼女の面目躍如たる作品と目している「森」という46年の作品。家族に送ってもらったオリーブの枝が手となり、その顔を覆って絶望して立ち尽くす姿は正面も背の区別ももはや意味を持たない。だから投稿の最後に掲載したビデオ撮りました。ビデオの最後の壁にあるのは彼女の言葉: 「物のルーツから出発しないといけないと思う。それはというと木の根、あるいは多分昆虫の四肢かもしれない 」


 

 
これは同時代の違う作品で葉っぱが型押しされてます
 
これは初期のものだがかじった果物の汁が乳房の間から臍、そして陰部へと滴れ垂れ落ちていく生命感溢れた作品

他にも写真いっぱい撮ったけど解説つけると尽きることないのでこの辺で。

ポンピドーセンターのリシエ展のサイトは:

 

追記:インスタで写真追加。最後のは晩年の作で、結構アールブリュットしています


2023年5月18日木曜日

パリで展覧会してます

現在パリの7区で二人展開催中:今月末まで

その前5月の1日から 1週間ブルターニュ地方の町でグループ展に出張していたがその話は後で(というのも今SNSで写真を出すとまだブルターニュにいるのだ、展覧会はブルターニュだと勘違いする人が続出するので)

 

この二人展はオルセー美術館の近くという、いつもの私の展覧会とは違ってまさにパリの中心で、かつ画廊も商売の「やり手」なので、ここで売れななかったら年金申請するしかないかと観念している:もう年金もらえる年齢なのだがまだしていなかった1番の理由は役所の記録に落ち度があり、やっと最近それが直った。そして私のように年金をもらっても仕事をし続ける人間はその年々の収入に見合った年金積み立てを払い続けねばならないが、年金額は申請時の計算で決まるので、その後収入が多くなって払込み額が多くなってもまったく支給額は増えない:つまり「もっと売れるようになるから少し待つか」なんていう楽観的展望を持っていたのだ。

それがですねー、大作がオープニングに売れてほっとしている私にやり手の画廊主は開催3日目にして「5000€の絵を売る方が1000€のデッサン売るよりよっぽど簡単、紙の作品は売れんから損するばかりでもうこれが最後だ」と私の楽観を見事に打ち砕くこと言い出して、、、その後に「あんたのドローイングは目の肥えた人しかわからんからな〜」と続けたが、これって褒められたのか褒められてないのか???

二人展のもう一人は日本贔屓のフランス人のマークさんで、和紙にキメの細かいデッサンを展示。私の作品の方が圧倒してしまうので悪いな〜と思っていたのだが、ふらっと入ってくるお客さんのお目当ては彼のでして、、、もう自重するしかないです。

これが華やかな私の展覧会の舞台裏なのかとしみじみと作品を鑑賞しに来ていただけるとありがたいです。 画廊主の認めるように(?)作品はいいですからパリにお知り合いがいたら是非宣伝してください。まだ将来完全に諦観したわけではありませんので:このままじゃ先月末に割れてしまった奥歯も抜けっぱなしになってしまうし、、、

所帯じみた展覧会裏話でした。

では強気の結論:今パリで展覧会見るならポンピドーのジェルマン・リシエの大回顧展(これもまた後日書きます)と私の小展です 。私のみならずポンピドーも将来あやしくて(笑)、工事で5年間も閉館するのですよ。

 
二人展:
Galerie Artismagna - Artborescene
25 rue de Beaune 75007 Paris
5月31日まで (火〜土曜:11〜19時) 
 

2023年4月16日日曜日

ストに勝るは工事?

早いもので(というか本当に驚くべく早い)パリに戻ってもう1週間。
帰りのフライトは運良く変更が無料でできたのでストの展望と私のライフラインの地下鉄14番線の工事スケジュール(去年からオルリー空港への路線延長で終日は夜10時終電、かつ時々週末ま完全シャットアウトする)を鑑み頭を悩ませたのだった。ストはまさかイースターの週末にはないだろう、14番線もこの週末は丈夫ということで選んだ先週日曜の羽田発だったが、、、

空港からの近郊地下鉄列車B線、「遅延」とのサインが出ていてなんか不気味。ストの余波かな〜と不安。でも待ち時間10分ぐらいで来てやれやれだったのだが、私の行きたいパリの中心までは行かず北駅止まり。それも近郊列車の発着ホームについたので、なんでこんなに人がいるか不思議な駅の中を歩くは歩くは*。とはいっても「ここまで来てこの人手の中今更タクシー乗り場探して乗る手はないよなー」とリヨン駅直通のD線のホームに行ったらこれも動いていない。そしてこれはストの所為でなく単なる「路線工事」で、、、。昨年から来年のオリンピックを目指して(だと思う)工事ばっかりでして〜。

右写真のような14番線の工事スケジュールはチェックしていたがB線とD線の工事のスケジュールまでは頭が回らなかった。(ちなみに今週末は完全❌で蟄居中、それでブログ書いてます😄。これは新しいカレンダーで、7月末から2週間真っ赤であること発見 😱😱😱 その後白いけどこれで終わるのか???)

話を北駅に戻すと、なんせ大きな作品丸めてバズーカ砲みたいなチューブに入れて、23kgぴったしのカバンを引きずっているからなかなか大変で。 結局B線で空港から直接行けるはずだったレ・アール駅へ助っ人に来てもらってやれやれやれ。

なんたって愛知県の実家から宅配でそのままチェックインされるというサービスを利用した後だから落差が激しかった。

こんなパリですが電車や構内で困った人同士一致団結(?)、知らない人とも自然に会話ができるのは魅力。やっぱり人間味あって楽しい🎵(←日本は不気味な感じがすることがあるのです)

肝心のストの方はというと、2回目の任期についた当初のマクロンは「反極右の票で当選した」という事実を率直に受け入れた感じだったのが(22/4/5の参考投稿)、コヴィッド中にロックダウンなどの強行措置を「人民」が意外に簡単に従った故か自らの権力に酔ってしまったとしか私には思えないのだが、君主さながらの超高飛車な態度で「自分は制度改革ゆえに大統領に選ばれたのだ」と言い張るようになって特攻気分(3度目の任期はないので)。スト+デモは退職年齢ばかりが争点になっているが、もっと広い意味での「反マクロン」は国民の圧倒的多数を占めているからどうなっていくか→私のような普通の市民は極右の台頭という暗い将来しか描けない感じ。これが私の想像力の貧困な故であることを願っていますが

* 注:北駅はイギリス行きのユーロスターやベルギー、オランダ方面への特急のほか、北東方面への従来路線、近郊線、それに地下鉄3本通っているから迷路のようで東京駅さながらに混雑している。以前はかっぱらいなんか多かったけど最近はどうなのかな?

 

2023年3月13日月曜日

名古屋で個展開催中です

私の活動情報をこのブログを介してのみでしか知らないという人はまずいないとは思うのですが、on sait jamais ですので

今名古屋のLギャラリーにて個展「ドラ・マールの家より」を開催中です。

 

2023年3月11日(土)~ 26日(日)
13:00~20:00

在廊日 : 火、土、日 
★ 在廊日の14時及び16時からトークの予定
 
 
〒465-0024名古屋市名東区本郷1-43 LiF F-1
 
 地下鉄東山線本郷駅下車 2番出口より徒歩7分
 

 
 

2023年2月22日水曜日

Eugenio TELLEZ展 20世紀の南米が写す現在

金曜日に日本に発つので(名古屋で個展します)その前に一つ展覧会を簡単に紹介・推薦
 
Eugenio TELLEZ というチリの作家(39年サンチアゴ生まれ)の比較的大きな個展(地下と地上階)がラテンアメリカ館 * で行われている。彼の名前、私には初耳だが、私のお隣のアルゼンチン人画家のCおばさんも全く知らなくて「どうして会ったことがないのだろう」なんて首を傾げていた。が、それもそのはず:彼は60年にパリにやってきてから66年までフランスにくる外国人画家のほぼ全員が通過する、一版で多色版画を刷る技法を生み出したヘイターさんのアトリエにいた(助手も勤めた)が、66年に渡米、その後はずーっと米国とカナダに居を置き制作をおこなっている。
 
南米出身の作家だけあって内乱や抑圧がテーマであることがモチーフからすぐわかるが、ドローイング、写真、版画を組み合わせた作品は、単純なストーリー的解釈をゆるさず、イメージが多層に絡まり一筋縄ではいかない現実社会を前にしたメランコリーとも落胆とも怒りとも取れる(あるいはそれが入り混じった)。彼にとっては南米の20世紀の歴史だろうが、今の私たちが世界をみつつ共感せざるえない感傷を表現していると思う。
 

* La Maison de l'Amérique Latineの展覧会サイト 4月22日まで Jusqu'au 22 avril 入場無料

 

これは紙の作品で比較的小品:大きなキャンバス画が多いので



 
他に何枚か写真(主に大きな作品の部分)をインスタに載せてますので見てください
 

 

技法・構成は「上手いなー」と感心できても、楽しい気分になる展覧会ではないが、、、

心を少し軽くするには、そうですねー、ついこないだなくなったバカラックのこの歌でも口ずさむしかないかな〜 (涙涙)

 




2023年1月29日日曜日

怒り続ける画家の元祖 ココシュカ

昨年3月バゼリッツについて「いつも怒ってるんだよな〜」と書いたが、今近代美術館で開催中のココシュカ Oskar Kokoschka 展を見て、ジャーマン系の怒り続ける画家の祖はこの人にありと思った。(今まで私は技術派の作家と思い込んでいたのだけど)
 
天才的画家なんてのは早死にするのが楽に決まっている:三十歳ぐらいなら神経ピリピリまっしぐらに一直線でいられるが、何が因果か長生き(1886ー1980、第一次大戦で2度も大きな負傷を負ったのに、93歳まで生きた)してしまうと温厚になりそうなもの。しかしココシュカは第二次大戦が終わって平和の到来し、逃亡生活も終わりほっとしそうなところでもたちまち冷戦体制に怒り下のような絵を描いている。色のけばけばしさとか描き方の杜撰さとか、先のバゼリッツをはじめとした80年代に登場したドイツの新表現主義顔負けの乱暴さだ。
 
鳩は飛べど平和も茶番に過ぎない? ライオンが原子力の脅威らしい
 
やばさを隠さぬココシュカ君
その辺少し見直したのだが、もっと見直したのは、、、
 
オスカー君(=ココシュカ)、大作曲家のグスタフ・マーラーの未亡人アルマ Alma Mahler と大恋愛の仲となった(1912年)。それはいいのだが、2-3年で失恋し、それもいいのだが、、、破局後何年も経った1918年にミュンヘンの演劇衣装デザイナー Hermine Moos にいろいろ仔細な指示をしてアルマ・マーラーの等身大の布人形を依頼した。彼は「心の傷を癒すべく(?)」何をしていたか知らないが、その人形を何度も絵にも描いている。そして最終的には首を切って破壊した。本当に乱暴。今のMe too 基準だと完全に場外ホームランだ(注:ココシュカは劇作家でもあった。「ホフマン物語」の人形の影響大だろう。「見直した」と書いたがこれは文字通り「見方を修正した」という意味ですので誤解がないように)ともかくパワーあり。今期の展覧会は「ウィーンのフォーブ」という副題がついているが、野獣派としてのフォーブ以上に「野獣そのもの」の感をみせつけた(!) 
 
これがアルマの人形。羊みたいにモコモコしているのはどうしてなんだろう。あぶな過ぎ
 
でも晩年の写真とかインタビューを見る限り落ち着いていて、フランスのマスコミに登場する哲学者の方がよっぽどアブナイ感じがするのだが、、、(笑)
 
ところでアルマさんはやっぱり美貌でこんな人だったらしいけど、服脱ぐとモコモコ無茶苦茶毛深い、なんてわけはないよな
 

 

晩年作:バンバン描きまくる感じだがこの絵には16年かかったって(1958-75)
 
インスタではココシュカ得意の人物画をいくつか掲載しましたのでご参考に
 

2023年1月22日日曜日

モノ展のダメ押し

前々回前回と続けて取り上げたルーヴルの Les Choses (モノ)展はインスタのeizo_eyesで写真を出したのでそれをここにリンクします。インスタではできない(読む人がいない?)説明を加えると、1枚目は前回紹介したポンペイのガイコツ。2番目は何か忘れた(笑)。3番目の絵はジェリコー Gericault が描いた死体置き場か病院の切断された四肢。 4番目はマチエールの使い方が上手で現代人の心をくすぐる Miquel Barcelo ミケル・バルセロ。

 

 

次の3番目はカメルーンの Barthélémy Toguo バルテルミー・トーグオがモノ展の為にルーヴルのピラミッドの下に作った特別に作った「移民」をテーマにした作品。これは分かり易すぎ(?)、彼はドロドロしたドローイングの方が面白い(インクの使い方、先のバルセロと似てます。つまり結構売れっ子でルーブルのショップでもお求めやすい価格でリト売ってました)。2番目はテーマとなったアフリカ人移民がルーブル前で売るチープな土産物:ルーヴルを追い出されたらこちらも店じまいの最中だった。1番目の写真はルーヴル宮前リヴォリ通りの工事??? パリには美術館外にも面白いものはいっぱい転がってます。

 

 
というわけで先の2投稿

エロもいいかも

また追い出された「モノ展」によせて

も読んでくださいね〜 

 

追記:インスタからのリンクだけだとこの投稿のマークとなる写真がないので追加:これはヴェネチア・ビエンナーレの女性シュールレアリストでの投稿でも登場したマックス・エルンストの奥さんドロテア・タニング Dorothea Tanning。前回あげたラジオ番組の最後に変なアーティチョークの話をしていたので「おお、趣味合うじゃん」と思っていたら、それはキリコの絵で(いいかげんに聞いています)、今調べたところこのタニングの絵は「薔薇」だった。もうこの辺で追い出しかけられて説明読んでなかったのです(笑)

ドロテア・タニング「薔薇とその幽霊」(一部)