2019年3月8日金曜日

縫・織・編

Judy TADMANとソーニャ・ドローネ
前々回に一つの流行とも言えそうな「縫い物アート」について触れたが、まさに「織る、編む」をテーマにした展覧会に遭遇した。テーマも手法も作家の世代も、幅広く紹介という感じで、数少ない作品で傾向を一望。私が皮肉めいたことを述べた「手芸ドローイング」の類いは不思議になかったが、その道の一人者を中心に集めた割にはインパクトがない。それぞれの作品は悪くはないが、「織る、編む」という行為は(展覧会では避けているが美術界一般に見て)似通った作品を産むようで、作家の個性が出にくい世界のようだと再度思った。
この展覧会はEspace Monte-Cristoという、20区の庶民的エリアに新しくできたスペースで行われているが、ここは南仏のアヴィニョンから近いきれいな町の Isle-sur-la-Sorgueに2014年にできた財団 Fondation Villa Datris のパリ出張所(?)で、昨年開催されたテーマ展の一部ということ。

Tissage/Tressage
6月29日まで続きます。入場無料(笑) 
Marinette Cueco 彼女は草を絡ませて繊細な作品を作る。今回の展覧会では特別大きく取り上げられている


Cathryn BOCHの地図を縫い合わせた作品
Stéphanie Maï Hanus ゴミ袋の結びあわせたドレス
この展覧会の参加の圧倒的大多数は女性で、だから概してジェンダー問題に発展させられがちなのだが、ごく少数ながら男性作家も。最後の丸い作品はSupport/ Surface シュポール/シュルファス(美術用語辞典)というフランスの70年代の運動の作家の一人のPatrick Saytourのもの。こういうほぼ何も手仕事してない作品の方が結局私の趣味かな。男性らしいと言おうか(笑)*

この展覧会でちょっと異色だったのはジョアナ・バスコンセロス Joana Vasconcelos
ポルトガルを代表するこの現代作家は今、2年前に塩田千春のインストレーションが行なわれた百貨店のボン・マルシェ(Bon Marché)のエスカレーターが行き交う大きな吹き抜け空間に、ディズニーのアニメ漫画の美意識から産まれたような超巨大でLEDが光るキッチュでバロックなオブジェをぶら下げている。この悪趣味さ、あまりにあまりなので面白い。空虚な装飾性がテーマなのかとは思うが、その(批判的行為)のためにこんな空虚なものを創るというのは「現代アート」ならではと、今更ながら驚く。作家の写真・ビデオを見る限りそんなにシニックな人には見えないのでコワイ:あるいは私の完全な読み間違えか?と今調べたら、これの宙に浮く作品は「シモーヌ」と言うそうで、アウシュビッツを生き、妊娠中絶を合法化したフランスの政治家シモーヌ・ヴェイユ(日本語ウィキ)と「第二の性」のシモーヌ・ド・ボーヴォワールへのオマージュだとかで、彼女は社会問題を取り上げる作家だそうだ。全然わからんけど。

3月24日まで。勿論これも無料です

参考


ボン・マルシェの展覧会サイト

先にもリンクした私の2017年1月の投稿

当然ながら最初に取り上げた展覧会には塩田千春の作品も含まれています。

* 注: 「編む」でも竹や藤となると男性の仕事になる。ケ・ブランリ博物館で日本の竹細工の展覧会 "Fendre l'air" が催されていたが、これは逆に全員男性だったのではないかな。竹とは思えない繊細な工芸品が一杯でした。(最後の写真は一番現代アート的作品):4月7日まで

前々回の投稿も宜しく




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