2017年1月27日金曜日

Where are we going, Bernard?

(sujet principal : l'exposition de Chihari SHIODA au Bon Marché
先日映画を見に行ったら、予告編の後に「糸を絡ませた作品」で有名な塩田千春がわーっとスクリーンに現れてびっくりした。FBの知り合いにも教えてもらっていたのだが彼女が百貨店のル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)で展示をしていて、その広告だった。最近では街頭ポスターもある。典型的な企業のイメージ戦略である。

「我々は何処に行くのか Where are we going?」というのが展示テーマだが、インタビューページを直訳すると「私たちの身体は(訳注:多大な情報量に)ついてゆけません。それが人生の真の意味を見つける機会に物事を一層複雑にします。私たちの帰属意識の本質にも影響する障害物できた人生を送っています。生活が豊かであればあるほど存在の目的、段階を理解することが難しいようです。私たちは人生の旅路を遍歴するのに紆余曲折しますが、何処へ向かうのでしょうか?」

 「我々は何処に行くのか?」というのは人生の永遠のテーマで文句ないのですが、今日何十隻もの浮かぶボートを見て、毎日地中海を渡ってくる難民を思い浮かべない人がいるだろうか? だが百貨店のページには「難民」も「な」の字もない。
ドイツ在住の塩田さんが現代社会の大問題を考えないとは思いにくく、故意に曲解すれば毎日流れる難民問題が人生の本質を思い誤らせる過大な情報の一つと取れないこともない。そしてこの展覧会に関しては「私は二つの体験、ショッピングを含めた日常の体験と、アートの体験を結びつけるアイデアが好きです」と続いていて、、、。
何かへんだなぁ〜、デパートの「検閲」でもあるのかと「下衆のエイゾウ」は勘ぐってしまうのだが、先ずは現物検証、買う物もないのに百貨店へ。

写真で見て「すごそー」と思っていた天井から吊るされた巨大なインスタレーション 、そしてトンネル***だが、ちょっと「あれっ?」という感じ。空間の大きさ、人の行き来を考えると当然だろうが、糸が太くて絡みが粗いような気がする。私が彼女の作品を初めて見たのは、今調べてみると2001年! パリ近郊のクレテーユ(Créteil)市で行われていたEXITという、ハイテク系アートがメインの、その頃かなりユニークで面白かった展覧会でだった。薄暗い回廊に細い黒い糸が張り廻らされ絡みあい、その蜘蛛の巣に捕われたようにベッドと机、椅子がポツンと置いてあった。病的とも思われる孤独感と寂しさがあり、かつ思索がこんがらがった時の自分の頭の中を覗いてしまったような気にさせる強烈な印象を受けた。ローマ字の作家名を見て、連れの日本人と「どっちかわからないけど(細かい技術と内省的なテーマから)絶対女性だよね」と議論したのを覚えている。その後大きなインスタレーションは、2010年の愛知トリエンナーレのチューブを使ったもの、2014年パリのタンプロン画廊で旅行鞄が吊り下げられていたものを見たが、「糸」のものは小品しか見ていなかった。

だから描いていたイメージに対して糸が太くて絡みが粗かったので「あれっ?」* そして周りの化粧品売り場のあっぴらけな華やかさに妙にとけ込んでしまっていたので、ダブルに「あれっ?」
この作品の軽さは???
結局、白くて無垢で天に向かう舟々は、やはり会場にあったパンフレットの「彼女の人生という旅への思い」の表れで、難民ボートなんてのは基本的には関係なく私の浅はかな詮索でしかなかったのだろうと結論。

概して「現代アート」では社会、文化、政治の「問題の提起」というスタンスを取るものが多いのだが、塩田さんに加え、宮永愛子、内藤礼、この3人の現在の日本を代表する作家が女性で今日の社会問題を越えた「万物流転」的テーマで現代アート作品を作っているのは、アートとしては真っ当だが広く見ると意外にジャポネーズの特殊性なのかもしれないと思いつつ、、、バーゲンセールでもと思ったが全然ショッピングは苦手で、、、

ボン・マルシェへ行ったのは本当に久しぶり(前世紀以来かも)。パン屋やピザ屋のように改装することなく参考投稿、昔のまま古い内装を生かし高級感を出して、お客にはなれないものの嬉しく思いましたが、実は「感」だけでなく、今や"bon marché"(安価)ではなく本当にハイクラスなのです(笑)。

(注:ボン・マルシェは1852年にアリスティッド・ブシコー(Aristide Boucicaut)によって創設された「百貨店の老舗」。当時では新機軸の「製品に値札を受けての定価販売」、そして薄利多売方式で大成功した。今の建物は基本的には建築家ボワローによる改築の1887年当時のもので、エッフェルも技術者としてそれにあたったと言われるが、仏語ウィキでは「それほどのことはしていない」らしい) 日本語ウィキもご参考に
ご参考に格調高き文具売り場

しかし女子店員に金持ちそうなおばさんが化粧品を試させている横にインスタレーションがあって、その他にも廊下に色々な作家の大きな絵がかかっていたりするのですが、何なんでしょうねこれは。やはり「百貨店がアートを利用しているだけで、ショッピングとアートなんて本質的には関係ないんじゃないの」というのが私の意見です。
でも塩田さんも一般的な知名度が抜群になるのは確か。そして今のボン・マルシェの経営はルイ・ヴィトン LVHM グループ。そのトップは芸術愛好家(?)の我が愛すべきアルノー氏**ですからね〜、「話はただの企業のイメージ戦略なんていう一筋縄の話ではなさそうですよ」と言うと「下衆エイゾウの勘ぐり」に逆戻りでしょうか?

**アルノー(Bernard Arnault)氏のことは以下の投稿をご参考に
2015年5月23日 身も心も
2016年4月11日 I ♥ Bernard


塩田千春さんの展示は2月18日まで。参考:ル・ボン・マルシェの展覧会ページ(ビデオ、制作中の写真もあります)。古い百貨店の雰囲気も日本の方には楽しめるでしょう。

***後記:インスタレーションのボートは150隻もあるそうです。それからトンネルの方は「海の記憶」という題。ビジターが波の中に入り込むように仕立ててあるそうで、テーマはますます難民にような???
 

以下2作はインターネットから拝借した作品
これは前回のベニスビエンナーレ(日本代表)で大評判になった作品

これが昔見たのに近いけど、クレテーユでは窓などない薄暗い閉鎖空間だった
*追記:昔見た黒糸は本当に細かったのか、黒い色だったからか? 16年前なので100%自信はありませんが、多分、、、




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