2024年9月10日火曜日

続 女性シュールレアリスト列伝  (ポンピドーセンター発)

アンドレ・ブルトンの「シュールレアリズム宣言」発行100周年に因んでポンピドーセンターで大規模な展覧会が始まった。その名も単に「シュールレアリズム」、副題はSurréalisme d'abord et toujours「まずは、そして常にシュールレアリズム」とでも訳そうか。

真ん中に「シュールレアリズム宣言」の本があって螺旋形にぐるぐるとテーマ別(つまり時系列ではない)に展示ホールを巡る。テーマは夢とか化け物とか夜とか、まあシュールレアリズムならそうでしょうという感じで、ポンピドーセンターとパリの近代美術館の持つコレクション、特に写真とドローイングがこれでもかというほど並べられている。そしてフランス国外からも私が何十年も見ていなかった代表作が来ているのでしっかり紹介を! 

ということには私のブログはならない。というのも私以上の専門の方々が色々書いてくださるに決まっているから(笑)

そこで今日はですね〜、2年前のヴェニスのビエンナーレの女性シュールレアリスト展に続き(その時の投稿)、こんな人知らなかった(あるいは記憶から消えていた)というビエンナーレにいなかったと思う女性画家をまず二人紹介(ただの受け売りですが)。

一人目は Yahne Le Toumeli 彼女は将来有名ジャーナリストになってエクスプレス誌の編集長になるJean-François Revelと結婚し彼の仕事のために1950-1952年にメキシコに行く。下の作品が彼女の「魔術師メルランの馬」というアーサー王神話に基づく作品だが、この女性的なマジックメルヘン的ストーリー性、誰かに似てませんか? 
ヴェニス・ビエンナーレの女性たちの記事をもう一度見て欲しいのだが、Yahneはメキシコで、ビエンナーレにテーマを与えたエルンストと別れたレオノラ・キャリントンと知り合い、大きく影響を受けた。52年にはRevel氏とは別れているが彼との間に二人の子供があり、息子はダライラマの通訳であり著作家などとしてフランスではよくマスコミにも出てくる超有名人物のMathieu Ricardなんですって! 彼女自身も67年に改宗、フランス初の尼さんだそうでまたびっくり。
兎に角この展示作品はまさにシュールレアリズムで、パリに戻って1957年に100作にものぼる作品の展示をした時にブルトンがカタログの序文を書いた。つまりポンピドーセンターの展覧会はアンドレ・ブルトンと雑誌シューリアリズムとの関係で60年代までに至る。彼女もその後は抽象絵画に向かうがブルトンもその頃にはアジア的なジェスチュアルな絵画もシューリアリズムに入れている(最後の「宇宙」のセクションにそういう作品があったが、ひょっとしたら彼女の作品だったのかも? 今度確かめてきます:最後はもうヘトヘト、一つ一つ見てられません)
 
Yahne Le Toumeli
 
もちろんこの展覧会ではキャリントンはもちろん、ビエンナーレの記事で紹介したドロテア・タニングビエンナーレで発見して感銘を受けたメキシコでのキャリントンのお友達のレメディオス・ヴァロ、それにパリ市美術館で素晴らしい回顧展のあったトワイヤンの作品はいっぱい、それにフィニやセージももちろんあります。
 
さて話は戻って、知らなかった女性作家の二人目は Ithell Colquhoun。彼女はインド生まれでロンドンで勉強、錬金術、オカルトに熱中し、ケルト信仰とヒンズー教に始まりユダヤのカバルとか様々な世界のオカルトにはまり、いろいろな秘密結社に属し続けたのでシュールレアリストグループから追放された!
これがその彼女の「9つの貴石のダンス」というMerry Maidensという円形の石器時代の遺跡に関わる作品。そんな遺跡知らなかったので調べてみたら石は19立っているのだけど?参考サイト
 
Ithell Colquhoun

  

そして私とは同じ屋根の下で暮らした切っても切れない仲のドラ・マール意味のわからない方はこちらへモンタージュ写真が「ユビュ王」など5点並べて展示されていた(彼女は残っているシュールな作品少ないのでいつものものだが、なかなか質は高い)。そして彼女のダチでブルトンの2番目の奥さんジャックリーヌランバ、今回初めてまともな「作品らしい作品」を見た!(汚名挽回?!◎)

 
Jacqueline Lamba
 

では最後にローテクな錬金術士を描く私が結構お気に入りのレメディオス・ヴァロ

Remedios Varo
  
Remedios Varo 部分

以上何回もリンクを貼ったヴェニスからの過去投稿を見てもらわないと意味がわからないと思います。

そのページでリンクを貼った「3分でわかる」ブログも必読必見です。

 

以上で今度のあまりにも手に余る展覧会の紹介は「サヨナラ、サヨナラ」のはずだったのだが、出口のブックコーナーでびっくり、エルンストの絵を使った展覧会のポスターが「売り切れ、入荷待ち」だそうで。

私はエルンストの大ファンで、昨年もエクサン・プロヴァンスであった展覧会も見に行った。そこで「一緒に行かないか」と誘ったプロヴァンスの知り合いが「エイゾウ、エルンストなんか好きなの?」と怪訝だった。というのもエルンストのイメージはこのポスターが代表するような具象性の謎めいた油絵が一般的で、今度のポンピドーのシュールレアリズム展のポスターにも使われて、またまたそういうイメージがはびこってしまうのではと地下鉄などで見るたびに心配になっていたのだ。私的にはもちろん初期の本の"une semaine de bonté"などのコラージュなど秀逸だが(これにブルトンはまず惚れ込んだ)、私がエルンストが大作家たる所以は子供でもできるフロッタージュ(擦り絵)やデカルコマニー(転写:乾いてない絵に紙をくっつけて偶然性の模様を作る)を文字通り昇華させた宇宙観を思わせる作品群なのだ。今回見に行って「森」のセクターにも「宇宙」のセクターにも代表作が国外から来ていて安心したが、最後の方なので多くの人は疲れて碌に見ていないのでやはり誤解は解けないのではと心配にもなった次第。
 
 
上はエルンストの「森」シリーズを並べた壁で左にもう一点大作がある。一番右はドイツロマン派のダヴィッド・フリードリッヒ。もちろんシューレアリズムは1日にしてならずで、美術史の延長上にあるのだが、フリードリッヒがあるなら「ゴヤの黒い絵とか何故ないの〜」とか、かなり疑問を感じた蛇足的一点(もちろん私はフリードリッヒも大好きですが)
 
最後はエルンストの「ウサギウサギ、何見て跳ねる」(本当の題は「銀河の誕生」)で締めくくり。素晴らしい!(円盤の白い点々も近くで見ると色が違っていたりして凝っています)
 

 
(これは上の「森」シリーズの大作同様スイスから来てます。つまり私の好きなシリーズはグッゲンハイムとかフランス国外にあるので、これもなかなかフランス人のエルンストへの誤解が解けない理由だと思う)
 



 

 

2024年9月8日日曜日

Pierrick Sorin  ピエリック・ソラン展

Mon opinion notable : 1) Le monde de Soran est dans la lignée de celui de Baster Keaton. 
2) Son travail que j'apprécie le plus reste toujours "Nantes projets d’artistes"

8月末にまたロワール川河口沖の大西洋に浮かぶユー島のKさん宅に4年ぶりにお世話になった。我が愛するユー島へ行くのはフェリーの時間が潮の満ち引きで毎日変わるので鉄道、バスとの連絡が微妙で旅行計画が立てにくいのだが今回はその点ではロス時間の少ない、とはいえサンヴァーの失敗もあったので乗り換え時間もリーズナブルに余裕のある見事と言える計画を立てて悦に行っていたのだが、着いた日と翌日は晴天だったもののあとは天気が悪くて、少し切り上げてナントへ。(ユー島に関する参考過去投稿)

ナントではこれも以前書いたことのある"Voyage à Nantes"というアートフェステイバル(参考過去投稿が夏に行われていて、パリに戻るついでに少し見ようかと思っていたが、プログラムを見るとフェステイバルが9日まで続くのに美術館で開催中だったピエリック・ソラン展の最終日が9月1日、これが回顧展風で芳しからぬ天気の島よりこっちのほうに賭けるかと。。。
 
 
ピエリック・ソランを知ったのはこのブログの最後にリンクした「ナントのアーティストプロジェクト」( Nantes projets d’artistes)という2001年のビデオ。ここでは自分が変装したヨーロッパの新進気鋭の現代アーティストが自分の作品を紹介するTV番組という趣で、いかにも現代アーティスト風の風貌と解説で、本当にできたら面白そうな規模の大きいインスタレーションプロジェクトが紹介される(もちろんTV番組ではモンタージュで実際に存在している)。つまり「現代アート」の自虐的抱腹絶倒のパロディー。でもそのナントにて2011年から街中にインスタレーションのある "Voyage à Nantes" が開催されるようになり、妄想プロジェクトも現代の最新デジタル技術を駆使すればできそうなものもあって、美術館でこのビデオをみていた子供たちは本当にあったことと思ってしまわないか心配になってしまう(笑)

彼はその後、舞台模型とビデオ、ホログラムを掛け合わせた昔のお祭りの「出し物」のようなオプチカルシアターといえそうなものをどんどん発表、それがすべて滑稽な道化的なもので、それで会場にも子供が多かった。すべてに馬鹿を真面目にやる自虐性というのがキーになっていて、その趣はキートン、タチの延長線上だと思う。
 
このオプチカルシアターばかりだと飽きるのだが、今回は宇宙飛行士が月の石を取るところを最終ビデオには見えなくなる黒子さん(実際は青い衣装だった)と一緒に演技するメーキングオブを作品と並べてみせたり、ビデオの見せ方も一工夫している。
 
次は私のインスタから掲載:
 
最初のビデオは覗く窓の後ろの壁に美術館のコレクションからの一枚の絵があり、なんのことだろうなと思って覗くとピエリック君に「あなたが邪魔で絵が見えない」と言われる。これは1989年の初めてのビデオインスタレーション作品のリメイク。
 
2〜4枚目のはやはり真剣そのものにガラス拭き絵画を行っているが5枚目がその裏側で半透明でそこにいる人影なども微妙に正面から見えるようになっている。
 

 

私の彼の好きなところはなんといってもその自虐的なところと工作少年のようなローテク性。
この自虐性というのは謙虚なんて何の美德にもならぬ、自己アピールの強さが問われるフランス(&/or)美術社会で極めて稀な例だと思うのです。
 
全部見ての結論は、、、やっぱり「ナントのアーティストプロジェクト」が一番じゃない? (フランス語しかなくて残念ですが)
 
 
これは本当のTV番組から。彼の作品の大体の感じはわかるでしょう。
 

 

 

これが最高傑作と私が一推しする「ナントのアーティストプロジェクト」Nantes projets d’artistes, 2001


お分かりのとおりソラン展も"Voyage à Nantes”も終了。後者では街を歩いて偶然出会した作品は紹介するほどのものはなかった。