2022年2月14日月曜日

人生のつづれおり - Mayumi Inoué 展

楽譜のつづれ織り
Sujet principal : Exposition de Mayumi Inoué  "Motif de vie".

人生はつづれ織り、嬉しいこともあれば悲しいこともあり、、、なんて口ずさんで帰ってきて歌詞を見たらキャロル・キングの「タペストリー」は全然そんな簡単な歌ではなかった(曲の出た71年頃の日本のラジオ番組ではこんな風に紹介をしていたと思うけど〜)。彼女の曲は素朴な歌詞が多くて中学英語で大体はわかるのだがこの曲はもっと寓意的で、、、聞いてもよくわからなかったはずだ。(アルバムは当時大ヒットでよく知られている曲が多い。「タペストリー」はタイトルソングだが、シングルでもなかったのであまり聞かなかったけど←自己弁護

それはさておき私にこの曲を思い出させたのは
織り込まれた写真はウジェニの息子
Mayumi Inoué (井上麻由美)
という若い日本女性作家の展覧会の、ウジェニさんという1人の女性の証明書とか出納書とかのドキュメントをつづれ織りした作品。ドキュメントは井上さんの友達がナントの一軒家を買った時に屋根裏にあった一個の金属箱に入っていたそうだ。それは以前の家主が引っ越ししてきたときにすでにあったという。箱の中にはウジェニさんは自分の「人生」の種々の記録と髪の毛までを残していて、井上さんとお友達はそれに基づき、1895年生まれで2つの世界大戦を経験したお針子さんウジェニの苦難多き人生を見出し再構築した(最終資料は封の切られていない1977年の封書でこの年に亡くなったと推測される)。井上さんはそれらの記録と髪で人生を織り込む作品を彼女の住んでいたその家で作ったというストーリー豊かな作品なのだ。壁に飾られた作品ばかりではなく、箱を譲り受けたお友達の俳優・監督のジョン=マリ・ ローヴェレックさんとウジェニの生涯を語る人形劇まで企画中とのことで、それが展覧会場でも開催される。この辺のお話、私が書かなくても彼女のサイトにきちんと日本語で説明されていますのでこちらを参考に 
 
最近はドキュメントのディジタル化で事情は変わっただろうが、私が40年前にフランスに来た頃には電気・ガスの領収書、銀行出納明細、手紙も「なんでもとっておけ」と忠告されて驚いた。例えばフランスでは各人が税金の「自己申告を」するが、間違った申告をすると3年、あるいは6年、状況によっては10年遡って調べられるらしいのだ。税金でなくても何か問題の起こった時は必要になる:だからなんでも取っておく。この昔に遡る「遡及性(rétroactivité)」という単語を初めて知ったのは、以前のアパートで大家さんから3年間値上げしてなかったから急にまとめて差額を支払と請求された時。そんなバカなと思って市民相談室に行ったら家賃は6年間(だったと思う)遡及可能ということで、、、😟 滞在許可書の申請などでもその頃は窓口で本物を見せて自分で予め用意しておいたコピーを置いてくるという形式で、わんさと「紙」を持っていく。アーティスト申請も最初は落とされたが、「大きさ、量の制限なんか無視してでっかい資料持って行かなきゃだめだよ」とのアドバイスを受け、そうしたらパスした。書類は厚さで勝負! 「無用な書類の山」にはタペストリー (tapestrie) ならぬパペラスリー(paperasserie)という言葉があるほどで、我が家にもパペラスリーがはいったボール箱が一杯ある。


これも楽譜から:こういう読めない方が私の趣味

だからウジェニさんが箱の中に「紙」をいっぱい貯め込んでいたのはわかる。でも「髪」が入っていたというのは私にはかなり不思議なのだが、井上さんは癌の化学治療をする人の髪で織った作品もあって(「いのちの糸」プロジェクト) 、、、これは私にはちょっとヘビーすぎ)、そうでなくても「織り」の行為は私には自分の羽を抜いて夜中にカッタンコットン「鶴の恩返し」、自分では絶対しない忍耐の世界で苦しそう(想像しすぎかな?)

他には使われた楽譜を織ったものも。音符が踊っていると少し気が弾みますが、これでキャロル・キングになったのか? ちゃんと歌詞を読み直して信頼できそうな和訳を見ると閉じ込められていたウジェニが解き放たれたこととの類似性があると解釈できないこともないから私の「鼻歌」は正しかったのかも**(笑)

テクスチャー作家は沢山いるが(ほぼ女性、男性もたまに)、布とか糸、自然素材(蔓とか髪の毛とか)、最近はプラスチックゴミとか、様々な素材を使え、コンテクストに合わせられて結構現代美術しやすい世界 * だが、作品としてはぐちゃぐちゃと糸が絡まる増殖的でのめり込み型のものが多い。それに対し井上さんの作品はシンプルで、使った素材の由来ともある距離を置いたクールなストーリーテラー的なところが私は気に入った。(私の意見は主流派じゃないので逆にそれが弱点かも。まあまだまだ発展されるでしょう:若い人は羨ましい←またまたエイゾウのブルース

展示スペースは画廊ライブラリーといっても書籍と独立していて、地上階に地下と規模も大きく40点もの作品を展示中。3月19日まで続く。でも水曜と土曜しかここは開かないですって。

「星の王子様」

インスタレーションも


galerie librairie IMPRESSIONS - 17 rue Meslay 75003 Paris  (01 42 76 00 26) にて

3月19日までの水曜(18〜21時)と土曜(14〜20時)

人形劇« Boucles »は3月19日(土)19時より - ウジェニがなぜ髪を残したか紐解かれるらしい
 
Exposition jusqu'au 19 mars 2022, Ouvert mercredi de 18h à 21h et samedi de 14h à 20h
 
Présentation du projet théâtre  « Boucles » 
samedi 19 mars 2022 à 19h avec Jean-Marie Lorvellec (comédien)
Une histoire qui explore pourquoi une couturière du XXe siècle nommée Eugénie, nous a laissé ses cheveux.
 
 
----------------------------------------------------------------------------------
 
 
 
* 考えて見たらテクスチャー・アートに関し昔少しだけ書いていた:2019年3月 縫・織・編
 
** キャロル・キングのタペストリー、歌詞+和訳付きYouTubeがありました(ただし訳は前のリンクの方が正確)
 
 

 

1 件のコメント:

  1. いつもながらあなたのブログ素晴らしい。今回も大いに楽しく読みました!この井上麻由美さんの展覧会、見逃してました、是非訪ねてみたいと思います。

    返信削除