マクロンがマキャヴェリ(ウィキ)を敬愛していることは昔から本人自身が言っていたことだが、最近の「移民法改正案」に関してはもうそのマキャヴェリ流の権謀術が極まった。かつそれはマクロン大統領+政府(面倒なので「マクロン政府」とします)のみならず、右派野党も同じくマキャヴェリ路線で、フランス政界でこんなにインチキで重大な茶番劇はおそらく私はこちらに来て初めて見る現象。
簡単に言うと政府は右派野党の票を得るため、政府案に憲法に反する条項とわかっていながら右派の意向の改訂条項をどんどん入れて受け入れ、多数を得て国会通過。全ての法律は公布されるためには合憲性を憲法評議会が認めねばならないが、予想されていた如く憲法評議会は条項の多く:三分の一以上をも却下(86のうち35条)、結局は右派との妥協前の、政府の原案に戻った形の改正法をマクロン君は公布した。この悪辣な権謀術、わかってもらえるだろうか?
インチキな権謀は右派野党も勝るに劣らない。彼らだって違憲だとわかっていたのに、違憲判断が出たとたん「民意の反映である国会の審議を踏みにじるものだ。だから憲法を改正せねば」と意気軒昂なのである。
私みたいな高潔なる士はやってられんです。
さて、問題になった「違憲改定案」は、35もの条項があるので細々複雑なこと排除し(私自身興味ないことはよくわかってないし)、重要なことは:
右派野党が改訂しようとしたことは、フランスをして「おフランス」(注:褒めてます)にしている、たいていの外国人がフランスに来て驚く律儀な平等主義なのだ。例えば日本人の貴方がちゃんとヴィザを持って留学して下宿を見つけた場合、申請すれば住宅手当を受ける権利が得られる=フランスの学生だろうが留学生だろうが差別はない。正規の移民労働者だったら社会保険(失業手当などの権利)を得、そこではフランス人労働者とまったく隔てはない。子供が生まれたら家族手当(かつて I さんは「俺でももらえるのか〜」って感動していたな)。これって当たり前のようで多分世界基準では全然当たり前ではない(日本はどうなのでしょうか😅)
つまり右派野党の改訂案は家族手当とか住宅手当とか、ある期間居住してない限り外国人は権利を得られなくするものだった=つまり金科玉条の「法の前の平等」に反する。
だがこういう改正(フランス人優先)に賛同する人はますます多くなっている。それは「このような手当を外国人に与えることが国家赤字の原因になっている」と極右がまことしやかに流布しているから。実際にはその「右派の実感(?)」に反し、例えばOECDの調査結果でも移民労働者の影響は足を引っ張るより貢献度の方が高いといえるのだ *。
さて、政府原案の目玉は「人手が足りない業種につく移民には滞在許可を与える」というもので、右派野党は移民数が増えるから当然反対、それで上に述べたマクロン政府は策謀をめぐらせたわけだった(注:現在政府は国会で過半数を占めていない)。
日本のような国の方からは誤解を生じるかもしれないので言っておくと、憲法評議会が違憲判断したのは評議会がマクロンの息がかかっているからということではない(もちろん大統領は一部の評議会メンバーを選ぶ権利はあるが)。「違憲」でよかったどころか、右傾化の激しいマクロン政府にとっては、評議会が違憲とせず法の下の不平等社会が実現してもひょっとしたら願ったり叶ったりだったかもと私は政府の本心を勘ぐってしまうほどなのだが、その中道から超右寄りになった政府の「人手が足りない業種につく移民の受け入れ」案には私は大賛成なのだ。個人的にここで、稼いでいないと滞在許可が延長されない、でも正式には労働許可はないという、鶏が先か卵が先かのような答えのない矛盾した不安定な状況に何年もおかれた経験から、移民できた人には全員に短期間の滞在・労働許可を先ず与えるべしと思っているので、産業界の欲する人手獲得であろうとその方向に向かうのには賛成なのだ(ウクライナの人にはそうできたではないか!)。
というわけでよく賛成意見を率先して言ってしまい、なかなか物事を整理してすらすら話せない私はマクロン嫌いの多い私の周辺で誤解を受けかねないのだが。。。とはいえ世の中AはA、BはBだけでないですからね。でもマクロン政府はAとBを混ぜ混ぜにして出してくる。これも策略か?(あるいは単なる私の意見の相違か😅)
国会で過半数を制していないマクロン政府は、これまで重要法案を強行採決し続け、今回はこんな裏技を使った。いずれにしても議会制の威信は失墜するばかり。フランスの民主主義はどこに行くのだろう?
* 注:移民が税金や拠出金の形で負担する貢献は、移民の社会保護、医療、教育に対する公的支出を少し上回っている。例えばフランスでは、2006年から2018年の間、移民の正味の財政貢献はGDPのおよそ1%であった。移民は若い親としての援助をより多く受けているが、労働人口も多いため、年金財政への貢献も大きい。
(レポート原本は私の能力超えるけど、ぱっとググっても France Cultureのノーベル賞経済学者の解説とか La Dépèche が参照しているのでご参考に)
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