2016年6月8日水曜日

斜眼のパウル・クレー

多くの人にとってパウル・クレーといえば、繊細なカラーの幻想的な心象風景を書く画家と思われているだろう。だから今ポンピドーセンターで行われている彼の大回顧展の副題が「作品への皮肉」*とあるのを見て「なるほど」と頷ける人は余程クレーをよく分かっている人に違いない。勿論初期のグロテスクな版画がまさに「古典美」に対する風刺画であることは誰の目にも明らかだが、その後の淡い色合いキュービズム的な絵は、実はキュービストの対象物の分析解体は絵画から生命力を欠如させてしまったとみる彼の皮肉の表明であり、「芸術と技術の融合」をモットーとしたバウハウスで教えた時代ですら、彼は画面を格子状に分割する構成主義を使っていると見せかけつつ、その教義の硬直性を指摘するべく不規則な幾何学形での画面構成に精を出すという具合で、いつもクレーは時代の潮流を冷ややかに眺めていた。こういう視点からクレーの作品を時代を追って見て行くのだが、「なるほどなるほど」、解説は非常に説得力があり、かつ勿論一つ一つの作品が非常に練られた作品だから、とても見応えがある。

晩年はピカソに影響されながらピカソの歪曲による悲劇性をすっかり消し去って夢幻的な世界を生み出し、最晩年の幼い無邪気な形象はナチスが台頭しつつある世界への戦慄であり、皮膚硬化症に苦しむ作家自身が表わされていたとは、、、。
私にとってはディスカバー・クレーと言おうか、今まで何んか不可思議に思われていた彼の作品に対するわだかまりが晴れたと言おうか、、、前回の「尻取り」展覧会を褒めておいてこう言うのも変ですが、「年代順に一つのしっかりした視点で見て行く」という、最近なくなってしまった感のある「大上段の回顧展手法」は貫禄で、それにも圧倒されました。

あまりに感動したので、時代毎の短い解説のある美術展の小冊子を日本の方の為に全訳しようと思っていたのだけれども、早一ケ月。最近やることが多くて、、、(できればそのうちに。乞うご期待)

話に関係した絵の写真はすべてインターネット種々のサイトから掲載。しかしどうして多くの来場者はあんなにバチバチ写真を撮るのでしょう。個人的にカタログでも作るのでしょうかね? そういえばペルラン大臣の例もありましたね

* Paul Klee, l'Ironie à l'oeuvre : 8月1日まで

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