2023年1月29日日曜日

怒り続ける画家の元祖 ココシュカ

昨年3月バゼリッツについて「いつも怒ってるんだよな〜」と書いたが、今近代美術館で開催中のココシュカ Oskar Kokoschka 展を見て、ジャーマン系の怒り続ける画家の祖はこの人にありと思った。(今まで私は技術派の作家と思い込んでいたのだけど)
 
天才的画家なんてのは早死にするのが楽に決まっている:三十歳ぐらいなら神経ピリピリまっしぐらに一直線でいられるが、何が因果か長生き(1886ー1980、第一次大戦で2度も大きな負傷を負ったのに、93歳まで生きた)してしまうと温厚になりそうなもの。しかしココシュカは第二次大戦が終わって平和の到来し、逃亡生活も終わりほっとしそうなところでもたちまち冷戦体制に怒り下のような絵を描いている。色のけばけばしさとか描き方の杜撰さとか、先のバゼリッツをはじめとした80年代に登場したドイツの新表現主義顔負けの乱暴さだ。
 
鳩は飛べど平和も茶番に過ぎない? ライオンが原子力の脅威らしい
 
やばさを隠さぬココシュカ君
その辺少し見直したのだが、もっと見直したのは、、、
 
オスカー君(=ココシュカ)、大作曲家のグスタフ・マーラーの未亡人アルマ Alma Mahler と大恋愛の仲となった(1912年)。それはいいのだが、2-3年で失恋し、それもいいのだが、、、破局後何年も経った1918年にミュンヘンの演劇衣装デザイナー Hermine Moos にいろいろ仔細な指示をしてアルマ・マーラーの等身大の布人形を依頼した。彼は「心の傷を癒すべく(?)」何をしていたか知らないが、その人形を何度も絵にも描いている。そして最終的には首を切って破壊した。本当に乱暴。今のMe too 基準だと完全に場外ホームランだ(注:ココシュカは劇作家でもあった。「ホフマン物語」の人形の影響大だろう。「見直した」と書いたがこれは文字通り「見方を修正した」という意味ですので誤解がないように)ともかくパワーあり。今期の展覧会は「ウィーンのフォーブ」という副題がついているが、野獣派としてのフォーブ以上に「野獣そのもの」の感をみせつけた(!) 
 
これがアルマの人形。羊みたいにモコモコしているのはどうしてなんだろう。あぶな過ぎ
 
でも晩年の写真とかインタビューを見る限り落ち着いていて、フランスのマスコミに登場する哲学者の方がよっぽどアブナイ感じがするのだが、、、(笑)
 
ところでアルマさんはやっぱり美貌でこんな人だったらしいけど、服脱ぐとモコモコ無茶苦茶毛深い、なんてわけはないよな
 

 

晩年作:バンバン描きまくる感じだがこの絵には16年かかったって(1958-75)
 
インスタではココシュカ得意の人物画をいくつか掲載しましたのでご参考に
 

2023年1月22日日曜日

モノ展のダメ押し

前々回前回と続けて取り上げたルーヴルの Les Choses (モノ)展はインスタのeizo_eyesで写真を出したのでそれをここにリンクします。インスタではできない(読む人がいない?)説明を加えると、1枚目は前回紹介したポンペイのガイコツ。2番目は何か忘れた(笑)。3番目の絵はジェリコー Gericault が描いた死体置き場か病院の切断された四肢。 4番目はマチエールの使い方が上手で現代人の心をくすぐる Miquel Barcelo ミケル・バルセロ。

 

 

次の3番目はカメルーンの Barthélémy Toguo バルテルミー・トーグオがモノ展の為にルーヴルのピラミッドの下に作った特別に作った「移民」をテーマにした作品。これは分かり易すぎ(?)、彼はドロドロしたドローイングの方が面白い(インクの使い方、先のバルセロと似てます。つまり結構売れっ子でルーブルのショップでもお求めやすい価格でリト売ってました)。2番目はテーマとなったアフリカ人移民がルーブル前で売るチープな土産物:ルーヴルを追い出されたらこちらも店じまいの最中だった。1番目の写真はルーヴル宮前リヴォリ通りの工事??? パリには美術館外にも面白いものはいっぱい転がってます。

 

 
というわけで先の2投稿

エロもいいかも

また追い出された「モノ展」によせて

も読んでくださいね〜 

 

追記:インスタからのリンクだけだとこの投稿のマークとなる写真がないので追加:これはヴェネチア・ビエンナーレの女性シュールレアリストでの投稿でも登場したマックス・エルンストの奥さんドロテア・タニング Dorothea Tanning。前回あげたラジオ番組の最後に変なアーティチョークの話をしていたので「おお、趣味合うじゃん」と思っていたら、それはキリコの絵で(いいかげんに聞いています)、今調べたところこのタニングの絵は「薔薇」だった。もうこの辺で追い出しかけられて説明読んでなかったのです(笑)

ドロテア・タニング「薔薇とその幽霊」(一部)

 

2023年1月16日月曜日

また追い出された「モノ展」によせて

前回話したルーブルの「モノ展」、昨日の日曜お昼のフランス文化放送の美食番組(?)* のテーマにもなりました。もちろんエロさんもフランドルの画家も取り上げられましたよ。 
 
そうそう最初の展示室には食事の後のテーブルをそのままに固定したダニエル・スポエリDaniel Spoerri はキートンがテーブルごと壁につけて皿をホースで洗う映画と横になっていたが、スポエリはルーマニア出身(30年生)で、移民博物館の展覧会にも登場していた。 
 
(スポエリは超有名かと思いきや、エロと同じく日本語ウィキがなかったので一言:イヴ・クライン(ウィキ)とかニキサンファール(ウィキ)とかセザール(ウィキ)とか、物の蓄積彫刻作家なので当然「モノ展」にいたアルマン(ウィキ)とかと一緒につるんだヌーヴォーレアリストと称するグループの一員)
 
キートン vs スポエリ
  
「モノ展」は最初の方は古典と現代(近代)を対に並べて興味深かったが
 
マチス vs 17世紀オランダの画家のデ・ヘーム マチスはルーブル所蔵の右の絵を見て左の絵を描いた

皆さんご存知のはずの、野菜や果物を集めて変な肖像画を描いたアルチンボルドは私が大好きな奇想天外な気色悪さのチェコのヤン・シュヴァンクマイエル Jan Svankmajerの次の映像作品の抜粋と並べてあった。
 
 
しかし後半(現代)になると「ご対面」が少なくなり、作品ごとの説明だけになって普通の展覧会になってしまったような。実は1度で見切れなかったので2度目にもっと時間をとって出かけたがやっぱり見終わる前に閉館で追い出された:なんたって説明文が多くて。でもちらりとしか見てない最後の2〜3室はもういいかという感じだった。
 
モノ展のテーマは静物画の歴史だが、フランス語では「静物画」を Nature Morte、直訳すると死んだ自然。
動物も死ねば静物になる?
 
これは「メデューズ号の筏」のジェリコの描いた死んだ猫
 

 ちょっと歴史は遡りますが、こちらは生贄と思わしきスルバランの羊

 
 私ももう直ぐかぁ〜、、、、「死を忘れるなかれ」メメント・モリmemento mori)は静物画の永遠のテーマだが、第一室にはもっと時代を遡ったローマ時代のポンペイのこんなモザイクが飾られていた。

 
骸骨が両手に持ってるの尿瓶じゃないんですよ(笑)。ワイン瓶だそうで、つまり上のリンクのウィキの説明でもあるように、古代ではキリスト教的な戒めではなく、「食べ、飲め、そして陽気になろう。我々は明日死ぬから」という教訓だったらしいです。ははは、最後まで飲みまっせ。
 
ではお口直しは清々しく
 
17世紀のフランスの女性画家 ルイーズ・ モワヨン Louise Moillon作
 
今回作家名から直リンクを貼ったのは全てウィキ。今の人はなんでもすぐに知られていいな〜。
 
 
 
追加:
 
先のヤン・シュヴァンクマイエルの映像作品を知ったのは「不思議の国のアリス」展の企画のGさんが見せてくれたからだったが、そのヤン・シュヴァンクマイエルの代表作のアリス、かつては稀有な存在だったVHSのビデオテープを回し見したものだった。でもそれが今ではYouTubeにある。モノ展とは関係ないけど、こちらです。1時間以上ある長編ですが、話は知ってるいでしょうから(原作通りではないけど)飛ばしても。どこ見ても結構不気味、かつ笑える!(但しアリスとはいえお子さんには見せない方がいいです)
 
   

 
前投稿のコピーですが
 参考サイト
 
「モノ Les choses」の大展覧展は1月23日まで ルーブル美術館のサイトは実はあまり参考にならない。
内容はこのページが良さそう(仏語ですが読めなくても写真がいっぱいあるから楽しめるでしょう)

「パリ、他のどこでもなく Paris et nulle part ailleurs」展は1月22日まで移民博物館サイトのページは作家別にページがあるほど充実しています。ちょうど1年前に書いたピカソ展も良かったが、意外にここ、美術に力を入れ始めたのか!?

つまり二つとも最後の週です!!!

2023年1月14日土曜日

エロもいいかも

エロ、初めての頃はすっごく好きだったけどやがて食傷気味になり、、、でもやっぱりパワーは! 
エロといってもErróの話。この人アイスランド人で(1932生)主にPopでアメリカの漫画的で超凝縮的な絵を描く。写真のような過剰な「もの」の超凝縮はもちろん消費社会への批判だというのは誰でも分かるが、今ルーヴルで開催中の"Les Choses"(物)という展覧会ではこれが肉屋の店頭の16世紀のアントワープの画家の絵に隣り合わせされていた。古典絵画の方は豊かな経済を誇示しているようである。ルーヴルの「モノ展」は古今の作品そういう「ご対面」をさせた面白い展覧会。「1時間強あれば」と思って行ったら甘くみすぎていた。最初の数ホールを見ただけで閉館時間になり、でもまあ半分は見たのであろうと思っていたのだが、監視員に追われつつ出口に至るまでに歩くは歩くは、大変な凄まじい展覧会であることがわかった。テーマがテーマだからもちろんシャルダンとかモランディはある、セザンヌ、マチス、あらあら藤田の静物画も、それからマルセル・デュシャンにシュールレアリズムも、最後の方にこれもエロしている(?)工藤哲巳のペニス花壇みたいなのもでてきて。エジプト、ローマから現代まで一気に遊覧してしまった。びっくりモノ(笑)

エロも食欲もおなじや〜。モノプリっぽい気もするが、、、(これも絵の一部)

16世期フランドルのJoachim Bueckelaerの絵の一部

Erro vs Bueckelaer 大作のご対面 しかしなぜエロは棚の上に乗ってるのかな、いま素朴な疑問が浮かぶ

その数日後これも終わりに近いので急いだ移民歴史博物館の「パリ、他のどこでもなく(Paris et nulle part ailleurs)」なる特別展に行ったらまたまたエロと工藤に再会。ここのエロはほぼ白黒の作品で仮面(人間)のようなものが工場のベルトコンベアに流れている。エロはこの「工場」シリーズを58年にパリに来て描きだしたそうでこれは61年の作。これも大作だからまたまたこれもインパクトが強かった。

エロの「ジェネレーション・オート・トランスフォーマター」 これも一部ですので

工藤哲巳、これは晩年
工藤の方は「鳥籠のペニス」(?)みたいなよく目にする作品(ポンピドーからの借り物のはず)に加え、巨大なカイコみたいなオブジェもあった。鳥籠もカイコもシェルター的な意味があるようだが、中にいても腐敗していく?

この 「パリ、他のどこでもなく」展は第二次大戦後(45ー72年)にパリに来た作家を24人選んで、彼らの移民人生の最初にスポットを当てるという展覧会で、履歴に加えインタビュービデオなどがある作家も。でも「何でこの24人なのかなー」と感じることもあるが、その多くは独裁政権から逃げてきたアーティストだから、アイスランドと日本のエロと工藤はその中では特殊な例。工藤(35年生)は62年にパリにやってきて、Jean-Jaques LEBEL(私はよくわかってないので前衛作家と一言にしてしまうが)と LEBELの勧めでパリに来たエロと親交を交わし下のの一緒にハプニングをしている写真があった。3人とも「物」をグロテスクにデフォルメして物質文明批判に向かうので気が合ったはずだ。右の写真にあげた工藤の傘のあるインスタレーション的オブジェ「前衛作家の心」は86年の作品で、解説によると「希望」を感じさせるらしいですよ〜(笑)

 

工藤青年!やってますねー(63年、つまりパリに来た翌年のハプニング)

これはフツウの工藤(ルーヴルの作品の一部

 
もう食傷気味でしょう。
では口直しに移民博物館でアジアを代表していたザオ・ウーキー(ウィキ)
 
 
それほどファンでもないのにこの写真を撮ったのは監視人さんが堂々と携帯をチャージしているから(笑)


参考サイト
 
「モノ Les choses」の大展覧展は1月23日まで ルーブル美術館のサイトは実はあまり参考にならない。
内容はこのページが良さそう(仏語ですが読めなくても写真がいっぱいあるから楽しめるでしょう)

「パリ、他のどこでもなく Paris et nulle part ailleurs」展は1月22日まで移民博物館サイトのページは作家別にページがあるほど充実しています。ちょうど1年前に書いたピカソ展も良かったが、意外にここ、美術に力を入れ始めたのか!?

つまり二つとも閉幕間近です!!!

 

作家解説は〜

工藤哲巳 https://www.artpedia.asia/testumi-kudoh/かな

日本語検索だとエロさんはエロに負けてうまくひっかかりませんね〜 
 

昔オプティックアートの展覧会の記事で書いたが、この潮流の旗手たちはほぼ全員中南米からの移民アーティストでもちろんソトもパルクも移民博物館の展覧会にいた。次のインスタに載せた動画はソトの作品