2014年2月24日月曜日

仏郵便局の変遷

フランスの郵便局は私の来た頃はPTTと呼ばれ、郵便電信電話局だった。この独占公共企業から1990年には電話が切り離され、2006年には金融鵜部門も独立して直訳「郵便銀行」が誕生、郵便部門も2010年春に民営化?(株式会社化)された(とはいえ過半数の株は国が保有)。これらの変化は欧州統合をうけて今までの国内独占市場を海外企業にもを開かねばならなくなったためだ。

今の郵便局にはこんな機械が並んでいます
儲けのある分野をはがされ裸にされた感のある郵便局、今までも事務の効率は概して悪く、時として公共機関としての失業福祉対策かしらと首を傾げるような能力の低い局員がいたりしたものだが、それなりに人間的(笑)だった。それが今や競争力強化の名目で自動化や下請け委託が進み、局員は暇そうにしているのにお客は機械を使って郵便を出し、迷子になった郵便物操作も客任せ、まったく変なのだ。

私は普通の民間銀行を使っているので独立した「郵便銀行」とは関係ないのだが、非営利団体には有利な条件ということで「国境を越えるキス」の口座だけを持っている。その口座が赤字になっていた。この口座は時々「団体」にしかギャラあるいは援助費が払えないというイベントがあるのでキープしていたのだが、お金の出入りがなくても維持費がかかる。とはいえその額は月に1ユーロ弱。まあそのぐらいいいかと思ってずーっとそのまま、一年に一回12ユーロを入れていたのだが、急に6ユーロが引き出されていた。何かの間違えではないかと郵便局に行って「金融係」に「突然2倍はありえないから非営利団体の口座維持費を調べてくれ」と尋ねた所「わからない。これが最新の資料だから読みなさい」と冊子を渡された。「日本では考えられない」と言いたくなるが、この態度は「フランスでもフツー考えられない!」(でもないかな?)。「もう口座閉じようかなー」と言ったら「それはこの住所に手紙を」私の持って行った明細表(注)の一段目を指差された。即やめたいところだが口座を閉じるのも費用がかかるはず。これに対しては同係員は「無料」と答えたが、これも「私の常識」ではありえない。家に戻ってパンフをよく読むと、維持費は本当に2倍の値上げ、口座を閉じるのはタダどころか52ユーロ! ほんとに呆れるばかり。

しかし呆れてばかりしてられない。口座を閉じる費用は維持費2年2ヶ月分と微妙。閉じたらまた必要なんてことがあるかもしれない。個人的には郵便局には公共機関として役務を続けて頑張って欲しいのだが、こんな無能郵便銀行に毎月2ユーロ(約280円)とはいえ寄付をし続ける気はしない、、、本当にたわいもない悩みだが、決断せねば、、、

注:フランスには預金通帳がなく、明細表が普通預金の場合は月に一度郵送されてくる。11/1の記事のようにそれが届かなくてトラブルこともある。

2014年2月18日火曜日

ポンピドーの「シュールレアリズムとオブジェ」展

未だに士気が上がらないのでまた展覧会:前回ブラッサイ展に行ってしまい見なかった、もうすぐ終わり(3月3日まで)のポンピドーの「シュールレアリズムとオブジェ」展へ。今週からパリの学校は2週間冬休み。基本的にはスキーに行くための休みだが、そんなに経済的余裕のある人はマイナー。かつ絶対に人気があるだろう写真の巨匠アンリ・カルチエ=ブレッソン展も始まってしまった。田舎からパリ観光に来る人が多いかもしれないし、、、と警戒して出かけたが、意外や意外、空いていた(展覧会に来る層とスキーへ行く層はダブルのか?)。

ポリアコフの展示が奇麗だったと褒めたが、この展覧会も 最近よく言われる「展覧会のコレグラフィー(振り付け)」が成功していた。というか元々シュールレアリスト達が昔企画した展覧会は今で言うインスタレーションが一杯の「振り付け」付き展示だったので、はじめからそれに馴染んでいるのだと思う。
かつ展示も1933年、36年、38年、47年そして59-60年のシュールレアリスト展の踏襲がメインで、その中でも彼らの作品にプリミティブアートや鉱物などを並べた36年の「オブジェ」展が圧巻だった(右写真)。かつこの珍奇品蒐集趣味的、フランス語で「キャビネ ドゥ キュリオジテ(Cabinet de curiosités)」風と言える展示法は、従来の歴史順、地域別に対峙する展示法といて近年流行なのだ(これに関してはまた触れよう)。

私は普通「ただ美しくみせるだけのわざとらしい照明」のお仕着せの見せ方しかしない「振り付け展示」(パリのケ・ブランリ美術館はその典型)は大嫌いなのだが、36年展の復元はオブジェが博物館的に大きなガラスケースに入り、久々に原住民の彫刻やマスクの背中側とかがしっかり見えてとても満足。


シュールレアリストの作品でも、例えばマグリットのベル型ガラス容器に入ったチーズの絵は後ろに回るとキャンバスの裏に「これはチーズではない」と書かれているのがわかるという具合。

 
見終わって思ったのは、超有名な作品、メレット・オッペンハイムの「鶏の丸焼き」に似たハイヒールとか、ポスターを見ている限り今ですら新鮮に感じていたのだが、本物を見たときのインパクトが(私には)随分低かった。やはり組み合わせの意外性がキーとなる作品はイメージの洪水の中で鈍化してしまう。シュールレアリストの歴史的影響として「エロス」をずーっと暴力的に表現する現代作家の作品が飾られていたが、30年代にはシュールレアリストの作品は同様な暴力性があったということなのだろうか? 人間何にでもすぐ慣れてしまう。だからそれだけの作品はすぐに陳腐化する。まあそれも美術史でしょうか?

この展覧会はシュールレアリストの彫刻の2大柱は「人形」と「レディ・メイド」であるという議論の余地がありそうなコンセプトで(だから逆にその二つに入らないシュールレアリスト時代のジャコメティが一人で大きなスペースを貰っていた)、最初にブラッサイの「指ぬき」などの日常品の写真があった:つまり市役所の展覧会は「パリ」がテーマで「回顧展」ではなかったので訂正します。

それから2/1に書いた ブルトンと良い中だったらしいヴィクトル・ユーゴのひ孫、ヴァレンチーヌの代表作はこの手袋らしい(本物はなくてその写真が展示されていた)


昨日もやる気がしなかったものの、眼鏡忘れてブレッソンの写真はないだろうと「展覧会の梯子」はしなかった。

ポンピドーのサイトのビデオでかなり雰囲気が見られますのでご参考に(何故セックス・ピストルズが音楽なのかこれまた疑問ですが)



2014年2月16日日曜日

「回顧展」の梯子

今朝は嘘のように青空がひろがっているが、最近のパリは低気圧が毎日通過、雨が多く、ブルターニュ地方、それ以上にイギリスでの大洪水はお聞き及びのことだろう。

木曜の朝も雨が降っていた。8月末に滞在許可書の更新(居住者というタイトルを得ているものの10年ごとにせねばならない)の申請書類を郵送したのだが、10月の期限日間近になっても返答がないので警察に出頭。外で3時間待たされた。その時貰った4ヶ月の仮延長カードが土曜に切れる。メールでの問い合わせでは心配した「資料紛失」というような事故はなく、記録上は更新は終わっており「召喚状」を待ちなさいとのこと(最近指紋を取ることになり、それが遅れの原因の模様)。冬の寒い雨の下、また何時間も待たされては堪らないので最終日の翌日まで待つことにした(勿論土曜は係は休み)。

そんな訳でまったく気分が乗らないので一日中「美術展巡り」をした。
最初はパリ近代美術館の「ポリアコフ回顧展(1900-1969)」。私がパリに来た頃(80年代)はバッドペインティングに対して巨匠の抽象画が確立されていて、昨年秋にポンピドーでこれも回顧展があったハンタイとかポリアコフ、あるいはサム・フランシスなどの展覧会が大画廊でよくあったものだが、いつの頃からかすっかりなくなり、とてもなつかしい気がする。彼自身「自分の絵は幾何学的、だが味のある幾何学」と言っていて「黄金比に基づいて構成されている」と解説にあったが、手書きの線の多角形がパズルが組合わされては消され、最後に補完的なエレメントが残されることが多い。大昔数学をかじった私には「代数的」で「多項式」を思わせるのだが、これは何故か説明ができない(勉強したこともすっかり忘れたし)。

プライベートコレクションが多い所為か、上の写真のようにすごく奇麗に展示してあった。

時代別にタイトルを付けて分けられていたが、基本的には生涯あまり変化なし。亡くなる直前(68-69)の絵だけはどうしたのか表面がフラットで色彩は鮮やか、構図も左の写真のように違っていた。


その後ついでに同時開催中の全然知らない中国人画家、Zeng Fanzhiの「回顧展」(1964生〜、なんだけど、、、)を見る:近年の荒っぽい巨大な「風景画」シリーズはポリアコフの幾何学を見た後には快感があった。その後久しぶりに常設展までしっかり見て、その後にはポンピドーの「シュールレアリズムとオブジェ」展も見るかとヴェリブ(パリの自転車:午後には雨が上がり、青空で、、、)で市役所前に着いたら、いつもなら1時間待ちの長蛇のブラッサイ展(これも回顧展)の行列が短い。「入場は6時15分までで貴男は入れるかわかりませんよ」とのことだったが、既に6時10分、5分で答えが出るなら並ぶのが嫌いな私でも並ぶ。結果無事に入れてもらえた。ポリアコフ同様ブラッサイもよく知った世界だから、のんびり最後まで懐かしんで、、、出たら暗くなったパリ風景を私も撮りたくなって(=良い作品は素人を感化する)安直に市役所にかかるポスターを携帯で撮った。


それからパリのど真ん中のルボリ通り59番地にあるアーティストの占拠ビル(とはいえ今やパリ市公認、きれいな画廊スペースまである)へ知りあいのグループ展、なかなか盛況、和気あいあいのオープニングで10時まで長居した。
日頃は展覧会の梯子など絶対しないので「驚くべき一日」だった。

こうして一日待った金曜は残念ながら雨 、警察は流石に来る人も比較的少なく、御上にも「ご慈悲」があるのか、待合室に椅子の数以上の人を入れたので外で待っていたのは1時間弱。でも手がかじかんで寒さは骨身に沁み、老体にはつらい。周りの元気そうな黒人のお兄さん達(差別ではありません。現実に列の90%は若いブラック)は傘もなく、、、全然体力が違う。10年後はどうしようと真剣に悩みつつ前日以上にやる気をなくし、午後からもうベッドに入った。

ポリアコフ(セルジュ)もブラッサイも有名すぎてそのままカタカナで探せるのでリンクなし。回顧展はそれぞれ2月23日、3月8日まで
 Zeng Fanzhi は今日まで






2014年2月8日土曜日

「醜いビル」と「美しい博物館」の徹底比較

MuCEMの回廊に立つRicciotti氏
Rudy Ricciotti, architecte français, a fait ce musée splendide à Marseil (voir les 3 premières photos), mais aussi un immeuble très laid dans mon quartier - Paris 13e (la 4ème photo).
Cet immeuble continue à m’énerveer, parce que chaque fois que je passe devant, je me rappèle de la remarque d'une personne, selon laquelle, hélas, mon installation de baguettes (voir la photo ou le diaporama) lui ressemble ... 
 
私のアトリエ界隈、地下鉄ビブリオテック駅出口すぐの近くに一年前にできた「醜いビル」と半年前完成したマルセイユの博物館 "MuCEM" が知りあいの言う通り本当に同じ建築家かどうか調べてみたら、確かにそうだった。建築家の名前は Rudy Ricciotti、南仏に本拠を置くフランス人建築家で1952年アルジェリア生まれ。脂が乗り切った年齢なのか最近大活躍、12年にオープンしたルーブル美術館のイスラム部門とか、外観真っ黒でこれもなかなか美しいエクサン・プロヴァンスのダンスセンターも彼の手になるものだった。






















同じアプローチとは言えますが13区のビルとの外壁の違いをご覧あれ。

 そして最後に完成予想図との比較はいかがでしょうか? Maintenant voyons les images-dessins avant la réalistion.

確かにこのイメージ、工事現場に張ってあった、これからあんなものができようとは




こっちは本物のようが良いような気もしますよ

繰り返し執拗に書いたのは、「私のインスタレーションに似ている」と言われた侮辱がビルの前を通るたびによみがえるからだが、これは私の有名建築家に対する単なるやっかみにすぎないのだろうか? (私の作品との比較は古いブログの記事:12/12/16および12/12/18 をご参考下さい)



右の写真はフランス文化省。同じ建築家に違いないと思ったら間違っていた(設計Francis Soler 完成2004年末)。窓の外に檻を作るのが流行なのか?

最後にRicciotti氏のサイトはこちら。13区の名作は何故か紹介されていません。

2014年2月6日木曜日

南仏出帳

月曜から昨日(水曜)まで南仏へ出帳した。

まず第一はアヴィニョン、塩のデッサンのプロジェクトを応援してくれたコレクター夫人の家へ選んだ五枚のデッサンを持って行った。日本なら宅急便で用が足りるが、フランスは扱いが手荒で、美術品と指定するととんでもない値段になるので、TGVに乗って直に運ぶのが一番確実。但しよく乗車規定を読むと私のデッサンを入れた木箱は荷物のサイズ制限をしっかりはみ出していて置き場に困る代物だったが、車掌さんは何も言わず、反対側のドアに立てかけてくれた。

このボウルだけは土がたまり植物が育ったと説明するポール



アヴィニョンでは昨年日本の現代美術に関する翻訳の仕事で関わつたこのヴォクリューズ地方に住むMさんと初めて面会。その後は04年にガーナに行って以来の英国人彫刻家友人のポール(Paul Stapleton)君のお宅にご厄介になりに田舎へ。ポールも私のように自然の中に作品を置いて変化していくのを見て楽しむ変な作家。数年前から裏山にある友人の林に作品をインスタレーションしていて、彼の公園みたいになっていた。昔私も山や森で作品を作っていた頃、冗談まじりで「人間ではなく兎や狐のために作っている」と言っていたものだが、ポールは赤外線探知機付カメラを取り付けて作品を見に(?)やって来る猪や鹿を写真に写してサイトで公開する徹底ぶり。このポールのガイドツアーは2時間もかかった!

昼食の後最寄り(約20km)の町のカルパントラ(Carpentras)のバス停まで送ってもらい、またアヴィニョンに戻り、鉄道でマルセイユ、そこからエクサン・プロバンスの友達Cさんの家にまたお世話になりに。ローカル線のゆったりとした旅だ。ローヌ河沿の風景は、羊や牛が草を食む牧場あり、石灰岩質の山塊あり、河口の工業地帯ありのヴァリエーション。日本語教師だったMさんは大の日本贔屓で「私が何故この国に住むのか分からない」のは当然と思うけど、「フランスは美しくない」とまで言っていた。この線路沿いですら十分美しいと思うけど。

そして昨日の水曜は新しく出来たヨーロッパ・地中海文明博物館(MuCEM) へ。博物館に行くのは海に架かるパッサージ(写真)を渡たる。それが昨日は強風強雨が断続。監視員は「こんなに人が少ないのは初めてだと言っていたが、それが当然 の天気で、、、。ここへ来たのは「建築学的興味」から。実はこの素晴らしい博物館を作った建築家と我がアトリエ近くの、私の日本でのインスタレーション「夢の浮き箸」に類似して全く異なる外観を持つ、既に紹介済みのあの醜いビルが同人物の手になるという不思議のため。同じ建築家でも予算と企画の重要度でここまで変わってしまうものか?


天気がいいと

昨日
といういう次第で中は見ず。何故ならここで出帳の第二の目玉、マルセイユの画廊とアポがあったのだ! 先月からパリで画廊巡りをしているものの、未だオリジナルを見せれたことすらなかったのだが、この機会だからと、サイトを見て4軒の画廊にメールを送ったところ、1軒から「見たい」と連絡があった。結果上々、帰りのTGVは一等車ならでは(仏鉄道市場開放で生まれたインターネットでしか買えないiDTGV 社経営の車両で、格段に安価。かつ一等と二等と値段がほとんど変わらなかったが)の出前サービスを使って一人でお祝いした。

それに画廊の人から聞いた、フランス海抜0mの基準となるマルセーユの海岸へ行って海水を採取。岩に砕ける高波の岸に降りて行ったら近くの住民に呼び戻された。

以上のように充実した3日間でした。

2014年2月2日日曜日

「民衆の敵」

昨晩はトーマス・オスターマイヤー(Thomas OSTERMEIYER) 演出のイプセン作「民衆の敵」を観劇。こんな文化的生活をさせてもらうのは、隣のCおばさんが突然孫の世話をせざるえなくなり行けなくなったから。サイトであらすじを読むと日本の原発問題を思わせるような話で興味を持った。アヴィニョンの演劇フェスティバルで大当たりを取った作品で、当日の空席を待つ人が長い列をなすほどの人気だったが、長年劇場の会員で早くから予約しているCおばさんから買い取った席は前から8段目の上席だった。

イプセン作「民衆の敵」は日本語ウィキペディアでもあるが、オスターマイヤーは結構自由に脚色する。だから観た劇のあらすじを書くと::

田舎町の温泉の診療医のトマス・ストックマンは浴場の湯が皮工場の排水で汚染されていることを発見する。市長の兄のピーターに泉源を変える配管工事を進言するが、小さな町には経費がかかりすぎる、それどころか2年間温泉を閉めねばならない。町の主要財源は温泉、これで「町興し」をしたたところなのにこの事実が知られれば町の経済は破綻する。兄は「トーマス、みんなのことも考えろ」と説得しようとするが、彼のレポートは出版社に渡り、、、しかし市長は温泉の株主連合の一員でもある出版社を説得。その社長ははやる部下を「世の中は一挙には変えられない。一歩一歩前進させるように私たちは努力しているのだ」と昇進をちらつかせて説得する。そして市長は「それほどの危険ではない」という趣旨のレポートを出させようとする。それに対しトーマスは事実を訴えるために町民集会をで演説する。

右の写真は、舞台の壁が黒板で、チョークで家具などが描かれていたのを、皆がペンキ塗りをして集会場の場面に一転するところ。
集会の演説は観客席を明るくして、観客が町民となった想定でされる。生きのいいフランスの観客は経済危機を強調する市長にブーミング、ヤジを飛ばし、それを出版社社長は「話を聞いてから判定しなさい」といなす。「これは温泉の問題ではもはやない。我々の社会の問題だ」というような趣旨の(実はドイツ語で字幕が舞台上に吊り下げられたボックスに出て、これは席が前なので逆に読みにくかった)というわけで少々難しかった演説の後で「トーマスに賛成する人がいるのか、いたら手を上げろ」というので私も含め大勢の観衆が挙手したが、「いったい何に賛成なんだ、言って下さい」と言われて一時劇場はシ〜ン。「あなたらは挙手していて何に賛成かも言えないのか」と挑発されると流石にフランスの聴衆は立派なものだ、そのあとおばさん、おじさん、お姉さん、お兄さんらが6、7人続けてマイクを取った。

そしてここで実際の戯曲に戻る:
トーマスの医師の倫理と人間としての正義感は結局一般市民にとっては敵でしかなく、攻撃を受ける(舞台ではペンキ玉を投げかけられる)。そしてこの事件の裏で皮工場の社長でトマスの嫁の父が下落した温泉の株を買い漁っていることがわかり、市長のピーターは彼を「スキャンダルを利用して私欲を肥やそうとしたと訴える」と脅す。一方義父はトーマスに「この株はお前への相続される財産だ。本当に価値をゼロにする気か」と迫るところで幕切れ。

いやー、面白がってばかりいられない内容だけど、面白かった!

オスターマイヤーの略歴 は次のサイト参照


第一幕でデヴィッド・ボウイのあのチェチェチェ"Changes"を今風にアレンジして生演奏したりして、ロック少年の私には音楽も楽しかったです。


2014年2月1日土曜日

二つの推奨展覧会

Deux expositions à recommander : LA CIME DU RÊVE et Alexandra FONTAINE
 
昨日は二つも良い展覧会を見た。一つ目はボージュ広場の一角にある「ヴィクトル・ユーゴの家」の特別展「LA CIME DU RÊVE (夢の頂)」
「ああ無情」のユーゴの名は世界に知られるが、画家としての隠れた才能を持っていた。とはいえ彼の天衣無縫な大胆なインクのデッサンは その時代のデッサンの枠組みから大きく外れていたのでまたもに見られることがなかった。というのもインクの染みを使ったり、文字を絵の中に組み入れたり、刺繍で押型を取ったり、フロッタージュをしたり、ステンシルを使ったり、はたまた子供のデッサンと自分のものを混ぜたり、技術的にはまるで「シューリアリスト」なのだ。とはいう訳でユーゴとシューリアリストの作品の類似性と相違を探るのがこの展覧会のテーマ。シューレアリスからしたら偉人の墓「パンテオン」に眠る詩人は敵の最たるものだが、破天荒なデッサンには一目置くしかなく(実際ユーゴのひ孫の嫁だったヴァレンチーヌ・ユーゴと「関係」があったアンドレ・ブルトンは、オリジナルを自由に目にすることができた)、一定の距離を置きつつも賞賛した。結果として無視されて来たユーゴのデッサンの価値を高めることになった。
写真の大作「ジャージー島の防波堤(Brise-lames à Jersey, 1852-1855)」でもよく観察すると色々なテクニックを使っている。この横にはフロタージュの柵の上に天体が浮かぶマックス・エルンストの絵が並びという具合に、意匠が似た作品が並べられていた。(注:エルンストの絵はサイトで拾ったので実際にあったものとは異なるかも)

  

例えば下のインクの染みの2点。 ピカビアは「聖なる処女」(1920)と題したが、ユーゴは当然だが単に「染み」(1852-56頃)としている。つまり「エスプリ」が違う。シューリアリストの(そして現代美術にも繋がる)「コンテクストの置き換え」という手法はユーゴには無縁なのだ。私にはユーゴが「染み」を作品としたかも疑問だが、これも含めて数々の貴重な作品が残ったのはユーゴの文学者としての名声のお陰。
 
ヴィクトル・ユーゴのデッサンは「ユーゴの家」の所蔵品なので特別展のために入れ換え差し替え、だからファンとして私はだいたい知っているはずだが、いつみても新鮮。但しデッサンに関する特別展がない場合は2、3点しか陳列してないことが多いので注意して下さい (常設展は、書斎とか中国風の食堂とか、、、まさに「ユーゴの家」です)
これはあと2週間のみ:2月16日まで。
日本の方は特別展サイトの下のビデオを見たら多少行った気になれるかも(最初に出てくる城の絵はユーゴらしくなく、ヴァレンチナ・ユーゴ作のように思われるのだが、、、まさかそんな間違えはないでしょうけど)


これは多分細長い作品の一部
 そして夜は「エイゾウ美術館」に来てくれたMさんに連れられて彼女の友達の画家の Alexandra Fontaineさんの個展のオープニング。
ご覧のように絵の中にユーゴに劣らぬダイナミックな風景が広がっていました。
 ちょっと怖いような、Germaine Richier(1904-1959)の作品を少し想わせる 鳥と虫の彫刻(和紙、小枝、貝、プラスチックなど、様々な素材を寄合わせて作られている )も並んでいます。
劇場地下会場(Ecam:パリ近郊ですが地下鉄からすぐ)、なかなか立派です。これは余裕で3月29日まで