2014年2月2日日曜日

「民衆の敵」

昨晩はトーマス・オスターマイヤー(Thomas OSTERMEIYER) 演出のイプセン作「民衆の敵」を観劇。こんな文化的生活をさせてもらうのは、隣のCおばさんが突然孫の世話をせざるえなくなり行けなくなったから。サイトであらすじを読むと日本の原発問題を思わせるような話で興味を持った。アヴィニョンの演劇フェスティバルで大当たりを取った作品で、当日の空席を待つ人が長い列をなすほどの人気だったが、長年劇場の会員で早くから予約しているCおばさんから買い取った席は前から8段目の上席だった。

イプセン作「民衆の敵」は日本語ウィキペディアでもあるが、オスターマイヤーは結構自由に脚色する。だから観た劇のあらすじを書くと::

田舎町の温泉の診療医のトマス・ストックマンは浴場の湯が皮工場の排水で汚染されていることを発見する。市長の兄のピーターに泉源を変える配管工事を進言するが、小さな町には経費がかかりすぎる、それどころか2年間温泉を閉めねばならない。町の主要財源は温泉、これで「町興し」をしたたところなのにこの事実が知られれば町の経済は破綻する。兄は「トーマス、みんなのことも考えろ」と説得しようとするが、彼のレポートは出版社に渡り、、、しかし市長は温泉の株主連合の一員でもある出版社を説得。その社長ははやる部下を「世の中は一挙には変えられない。一歩一歩前進させるように私たちは努力しているのだ」と昇進をちらつかせて説得する。そして市長は「それほどの危険ではない」という趣旨のレポートを出させようとする。それに対しトーマスは事実を訴えるために町民集会をで演説する。

右の写真は、舞台の壁が黒板で、チョークで家具などが描かれていたのを、皆がペンキ塗りをして集会場の場面に一転するところ。
集会の演説は観客席を明るくして、観客が町民となった想定でされる。生きのいいフランスの観客は経済危機を強調する市長にブーミング、ヤジを飛ばし、それを出版社社長は「話を聞いてから判定しなさい」といなす。「これは温泉の問題ではもはやない。我々の社会の問題だ」というような趣旨の(実はドイツ語で字幕が舞台上に吊り下げられたボックスに出て、これは席が前なので逆に読みにくかった)というわけで少々難しかった演説の後で「トーマスに賛成する人がいるのか、いたら手を上げろ」というので私も含め大勢の観衆が挙手したが、「いったい何に賛成なんだ、言って下さい」と言われて一時劇場はシ〜ン。「あなたらは挙手していて何に賛成かも言えないのか」と挑発されると流石にフランスの聴衆は立派なものだ、そのあとおばさん、おじさん、お姉さん、お兄さんらが6、7人続けてマイクを取った。

そしてここで実際の戯曲に戻る:
トーマスの医師の倫理と人間としての正義感は結局一般市民にとっては敵でしかなく、攻撃を受ける(舞台ではペンキ玉を投げかけられる)。そしてこの事件の裏で皮工場の社長でトマスの嫁の父が下落した温泉の株を買い漁っていることがわかり、市長のピーターは彼を「スキャンダルを利用して私欲を肥やそうとしたと訴える」と脅す。一方義父はトーマスに「この株はお前への相続される財産だ。本当に価値をゼロにする気か」と迫るところで幕切れ。

いやー、面白がってばかりいられない内容だけど、面白かった!

オスターマイヤーの略歴 は次のサイト参照


第一幕でデヴィッド・ボウイのあのチェチェチェ"Changes"を今風にアレンジして生演奏したりして、ロック少年の私には音楽も楽しかったです。


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