2016年10月24日月曜日

愛知トリエンナーレとの遭遇

今年の秋は愛知県では3年ごとのトリエンナーレが開かれていた(昨日10/23まで)。今回は特に舞台芸術に力が入れられ、パリで毎年見られる有名アーティストにはまだ良い場所の残席があるのでびっくりして、全く知らないグループはパリに来るかどうかわからないのでという理由から、結局ついつい幾つも見てしまった。 

その中で一番新鮮な驚きがあったのはチェコのダンスグループのヴェルテダンス(VerTeDance) の"CORRECTION"。舞台にダンサー(確か7人)が並んで立っているのだが、彼らの靴は舞台に固定されている。つまりステップのないダンス。波が伝わるようなしなやかで「現代ダンス」的な身体の揺れに始まり、それが徐々にばたりと後ろや前に倒れたりと私には一度たりともできぬアスレティックな大変な筋肉運動を伴う動きに変わって行く。列になったダンサーは互いに共感しあったり、連帯するかと思えば争いあったり、狭い視野の「村社会」を表わしているような、、、。私は最後には皆靴を脱ぐことだろうと思っていたのだが、見事に裏切られた。メンバーの一人が「束縛は靴、これを脱ごう」と気付いたのだが他の全員がそれに反対(勿論これは無言劇)。そして文字通りの足枷のままディスコで狂乱して踊るような光景で終わる。コミカルかつ劇的、流石にカフカや「兵士ツヴェイク」(ウィキ)という不条理な確固たる世界批判を生んだ国のカンパニーだけのことはある。クラリネットの楽団が生でミニマルな音楽を伴奏することも魅力。参考にはこのビデオですが 、もう一つです。彼らのサイトにもビデオがあるのだけど、これは普通というか凡庸で舞台のすごさが全然出ていない。この為にKさんの推薦にもかかわらず見ようか見まいか迷ったぐらいだったのだが、見て良かった! でもCORRECTION、修正というのはどういうことなのかな? 私の読みが全然違うのか?

 

生演奏と言えばいつものようにしゃれた幻想世界を創り出すフィリップ・デュクフレの「コンタクト」はダンスというより見事にミュージカルの観を呈していた。主題がファウストなのにあの軽さと美的なメリハリの良さはまさに「おフランス」、何とも言えませんね〜。ヴェルテダンスのビデオとは違いデュクフレはこの手のプロですから、トリエンナーレ用の次の楽しい宣伝クリップを見ても行きたくなりそうなものだけど、1週間前に舞台から数列目の良い席がまだ残っていて(それで即購入)、、、当日の入りももう一つというフランスに住む私には驚くべき状況。デュクフレは30歳の若さでフランスの1992年の冬季オリンピックの開会式を担当して一躍有名になった(若い人はこの驚くべきイベントを知らないでしょうが、youtubeでも色々見られますのでご参考に)。でも愛知県ではいまいち知名度がないらしくて、、、これを思うと私の個展に人が来ないなんてのは当たり前ですな〜。それは兎も角、メンバーのほぼ全員がダンスに歌、曲芸をこなすのはすごい!



それに私がブログで一昨年の夏に書いた現代フラメンコのイスラエル・ガルバンの「ソロ」もあった。素晴らしかったけれど、これはパリの方が良かった。理由は簡単、劇場バックが黒で、黒い衣装だったから。関係者の人たちは翼側に座っていたようなのでそれをあまり感じなかったのかもしれないが、これでは彼の細かな手足と動きがよく見えない。もったいない。。。

豊橋の公園ではアニマル・レリジョン Animal Religion というバルセロナのサーカスグループの野外公演があった。これは全く知らないがバルセロナだからバイオレントにやってくれるだろうという期待から。というのも80年代にバルセロナの La Fura dels Baus(ウィキ)の公演を見て服は濡れ埃まみれになった新鮮な想い出があるから(正直事故が起らないか不思議だった)。アニマルさんはそれなりに暴れて、巻き込まれた観客を喜こばしていたけれど、ひょっとしたら日本だから手加減したかも。

豊橋ではついでに吊られた石を口笛(息)を吹きかけて動かす結構可笑しなパーフォーマンスも見て、、、(これは私の横に座った子供と私以外の人は、何十億年もの石の記憶を呼び起こすという「現代アート」らしい自惚れた解説をマトモに信じたかの様に難しそうな顔をしていた)

それに何の因縁か、名古屋市美術館に行ったらフランスのモンペリエのカンパニー・ディディエ・テロンというグループのプクプクふくれた衣装を着たダンサーたちがビデオ用の撮影をしていて、居合わせた若者とダンスバトルなどして可笑しかった。

私には僅か1週間のうちにこんなに様々で、質の高いものに「遭遇」できて幸運だった! (「遭遇」というのは日程をその為に合せたわけでもなく 、諸事情から母の一回忌が遅れ、歯痛で遠地への「温泉旅行」もする気がしなくなったから。舞台が面白いときは歯痛も忘れハッピーでした)


この素晴らしい舞台芸術のセレクションに対し、トリエンナーレの「国際造形美術」の方は(半分ぐらいしか見ていませんが)つまらなかった。 「旅」というテーマのために、悪いロードムービのようなビジュアルなインパクトが欠如した、方法論的な饒舌さが目立ち(それが目的と言われればそれまでですが)、かつパリではあまり見れないと期待していた第三世界のアーティストたちも先進国の現代アートの様式を真似るばかりで、、、。印象に残ったのは??? ムッソリーニが倒れてイタリアが敵国となり豊田の寺に強制収容されたイタリア人の写真家にして民族学者マライーニの家族の話ぐらいかなぁ(これはアートでなくドキュメンタリー部門)。そうそう、豊橋の鏡面時計のインスタレーション(久門剛史)はきれいだった。

私の友達は「現代アートが好きな人がなくなっちゃう」と嘆いていたが、これほどだと「劇場」への入りにも影響したかも知れない。6年前に見た第一回目は面白かったのだけれど、今回はともかく大いに落胆。

そして最後の絞めはトリエンナーレではなく、四半世紀経ようとする今でも心に残る懐かしのデュクフレのオリンピックの開会式で♫(若い人たちに見てもらいたいので)





付録:スパイラルホールのサイトからの抜粋: 
ヴェルテダンス VerteDance
チェコ共和国を代表するダンスカンパニーヴェルテダンスは、ダンサー・振付家のヴェロニカ・クニトロヴァー、 テレザ・オンドロヴァーと照明デザイナーのパヴェル・コテリークの3人によって2004年に創設。これまでに約20のプロジェクトを製作。チェコおよび世 界のダンスシーンにおける多くの著名なアーティストたちとの共同作業を行ってきた。チェコのダンスの分野で最も名誉ある賞、ダンス・ピース・オブ・ザ・イ ヤーを3度も受賞した国内では唯一のカンパニーである。

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