2026年6月2日火曜日

「キス集め」で見る時代の変遷

ヴェニスビエンナーレで久しぶり* に復活した「キス集め」だが、この "Baisers Sans Frontièes" (「国境なきキス団」)の起源は1998年に遡る。あるイベントで偶然はじめた参加型企画だったがあまりにも面白いので自分でびっくり、ではいっそのこと2000年までに2000枚集めてキス展をするというチャレンジ目標を立て、その実現にむけてキス集め用の台車を作って色々な街頭フェスティバルなどに参加してその数年間ずいぶん頑張ったのだった。

この企画が面白い理由は、白葡萄を使った奇妙なプロセスなので、葡萄をかじってちょっとカードに投げキッス風の人もいれば丹念に唇をなぞってカードを机の上に置いて恭しくお辞儀をするようなキスをする人、はたまたベトベトに果汁で濡らした口でカードが折れるまで情熱的なキスをする人と、各人それぞれ個性あふれる反応をし、その微妙な違いの結果が二つとして同じでないキスマークを生み、性格判断まではいかないが「この人がこんなふうにキスしてこうなるのか」と収集作業をする私もやっていてなかなか楽しめるのだ。もちろん参加する人もキスがバーナーで現れてくる「あぶり出し魔術」の瞬間ばかりでなく他の参加者のキスの仕方とかその結果の「絵」を比べたりして楽しんでもらえる。私もこの人生いろいろやってきたがこれが人生一番のアイデアと自負していて、せっかくヴェニスビエンナーレという晴れの舞台で発表できる機会がもらえたのだから絶対「キス集め」もすることに決めたのはそれゆえだったが、それがちょっと不完全燃焼気味に終わったのは前々回の投稿に書いた。

ヴェニスでのキス集めが具体化しつつあった数ヶ月前、アルジャントゥーユ Argenteuil というパリ郊外の街の公園で週末にアーティストが野外制作する企画の公募があって、勢いで(?)出したのが入れてもらえた(応募に出せばほぼ100%当選の自信はあった。というのはアルジャントゥーユは1870年代モネが住み**、そのセーヌ川畔では他の印象派の画家も来て絵を描いたので「印象派の街」を市は売り物にしているのだが、今年はモネの没後100年でこの企画も「モネへのオマージュ」という副題付きで、多分ほぼ全ての企画はダイレクトペインティングだろうから「変わり種」の私の企画は絶対入るだろうと。でも問題は「何でキスがモネなの?」これに答えないと応募書類が書けないわけで、こういう妄想的発想はAIはもっとも苦手とするところのはずだからちゃんと自分で頭を捻り企画書を作文した。これに関しては言うのも恥ずかしいのでご自分で想像を膨らませて考えてください。)

ということで今週末はアルジャントゥーユの音楽院の横でキス集めをした。土曜は最高気温34度!日曜は打って変わって一気に22度の涼しさ、熱かろうと寒かろうともっとも危惧した雨天は避けられたのでそれは何よりだった。私も心配はしたが企画を組む街にとってのほうが大変な冒険だったろう。でも1週間続いた猛暑のせいか「母の日」のせいか人通りはまばらでこれには困った。キス集めは売店とは違ってスタンドたてていれば人がやってくるようなものではなくて客引き商売(笑)、百戦錬磨の私としてはせっかく来ているからには少なくとも100枚程度のキスの壁は作らねば「国境なきキス団」の名に恥じる?😅

だから通りがかる人に声をかけるのだが、通行人が少ないのは大ハンディーだが、今やそれ以上に多くの人は携帯片手で歩きながら話してるでしょ、これは困る。大抵こういう人は忙しがり屋だし。そうでなくても大抵の人は、例えば子供を迎えに行くところでとか何やらでいつも忙しいのだ。これが勧誘拒絶の第一の理由。他にもブドウは嫌いだとか、糖尿病だとか、ノンの理由はいろいろあるが、今回初めて遭遇したのは:
 
「このブドウは有機栽培か?」
「注意せずに買ったのだけど多分違うと思う。でも食べなくてもいいんです。皮剥いて果汁を唇につけるだけだから」
「だめだめ防虫剤は表面に多いから。それにブドウの栽培は特に防虫剤たくさん使うんだよ」
 
という厳格な健康主義のお兄さんでした。はははやっと表題に辿りついた(笑) 
 
 
このぐらいのことで撃退されるのだから百戦錬磨でも何でもないが、キス集めのおかしいところは、面白がって「勧誘」に出かけてくれる人が出てくること。今回は市の係(これは半分公務だが)はもちろん、今回はオーケストラの練習に来た日本人女性が団員に声をかけに行ってくれて大助かり。ブログ読まれるかどうかわからないが、ありがとうございました!
 
 
それにも関わらず30、31日の午後のキス集めの結果は上記写真のとおり92枚にしか達しなかったのだが今回集めたモネに捧げたキスはアルジャントゥーユ市に「寄贈」したので何かの機会に展示して使ってもらえるとしたらそのぐらいでちょうど良かったかも。
 

** 「アルジャントゥーユのモネ」についてのウィキ 

* 前回は2013年のアミアンのヌイブランシュ(白夜)フェスティバルに遡る。この時は夕方から夜中まで続くイベントで、単なる通行人ではなく当から面白そうなものを見て楽しもうという人々が来ているので「客引き」などしなくても大勢の人が列をなすほどの賑わいで完全燃焼。キス集めは私自信は忙しく写真とか映像を撮る余裕がないのでアミアンでは当時仏国立映画学院をでたばかりだった(と思う)畑明宏さんに来て撮ってもらった。おかげで貴重で美しい高品質なドキュメントとして残った。その畑さんは昨年初の長編映画の"Grand Ciel"が劇場公開され評価も高いようだ。私は日本に長期滞在中だったので見逃しているのだが😅、これに関連し理知的でしっかりした彼らしい日本語でのインタビュー記事がありますのでお読みください。 

追記:2013年は何がきっかけだったか忘れたけれどアミアンの他にイスタンブールのアートフェアと南仏で、その前は2003年のパリのヌイブランシュまで遡る。つまり2000年以来ずーっとやっていると誤解する人もいるのだが全然そんなことないのです。  
今度はまた十数年後?などといわず、アルジャントゥーユの企画でもらえるギャラ使って欲求不満解消にヴェニスへ再臨しようかな(笑) 

 

 

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