2015年5月20日水曜日

二つのダンス、二つの叫び

今ルイ・ヴィトン財団で妙な特別展が行われている。妙と言うのは、ムンクの「叫び」(オスロ、ムンク美術館蔵)、マチスの「ダンス」(サント・ペテルスブルグ、エルミタージュ美術館蔵)、それにマレヴィッチの「黒い四角」(サント・ペテルスブルグ、ロシア国立美術館蔵)などが来ていて、お金に飽かして絵画史を塗り替えた作品を集めたのかと思うと、スイスの象徴派風景画のホドラー、加えてに同傾向のフィンランドの画家ガレン・カレラAkseli Gallen‐Kallela)のように、展示の湖の連作4点は美しくて見応えがあっても知名度でも美術史上のインパクトでも圧倒的に低い作家、作品もある。モンドリアンの幾何学抽象絵画もあれば、ジャコメッティやフランシス・ベーコン。それからピカソ、モネ、レジェ、カンディンスキー、ロスコ、ピカビア、、、内容的には色々なものがつまみ食いされた地方の小美術館のようと言ってしまえるが、掛けられている作品は勿論のこと田舎の小美術館にあるようなものではない。錚々たる作品が揃うのはヴィトングループが巨額の保険料を払えるのに加え、世界各国の大美術館の特別展などで「メセナ活動」をしているというソフトパワーがものを言っている。だからその見返りをきかせ、、、結局メセナは巧妙に利用される宣伝活動なり。何故またこんな陰口をたたくかというと、この特別展が「情熱の鍵 Les Clefs d'une passion*」と題されている割に、展示作品の数も少なく(超贅沢な飾り方、例えば大きな十メートルほどの壁にモンドリアンが2点のみというような、には好感を持つが)、その意図が把握できず、何に対する熱情かさっぱりわからないから。(展覧会は「主観的表現主義」「瞑想」「ポップ」「音楽」という4区分されていて、、、四ク絶句ですよ)

しかしそれでも私は行く甲斐があると思うのは「ダンス」があるから。マチスの「ダンス」はニューヨークのMoMAと前記のエルミタージュにあるのだが、ともに2.6 x 3.9m の壁画的大作。前者(2番目の写真)は1909年制作で、マチスは「もう一つだな」と思い翌年(1910年)新たに描いた(最初の写真)。
「これはロシアの富豪シチユーキンが注文したが発表当時大不評で、、、」という美術史の解説は何かの本に譲りたいなあと思ってグーグルしたら、この事情を面白可笑しく書いてあるすばらしいブログを発見、ご参考に(でもこのブログは4本の投稿しかない!マレヴィッチの四角のこともありますので今回の私の投稿にはばっちりです:
http://d.hatena.ne.jp/ankeiy+art/20120515/1337035243

さて、では改めてこのロシアから来た「ダンス」見て戴きたい。マチスは簡単な一筆書きのマンガのようなデッサンでも何度も何度も線を引き直し、白い紙が陰影をつけるためでもなく黒ずんでしまうのだが、その執拗な線の探求がダンサーのよじれた足、背中、肩ににじみ出ている。輪になって踊る床さえも丸ではなく湾曲し、それがアクセントをつけ、
できた踊り手たちの姿はまさに「これでなくては!」とマチス同様私も思うのだが、皆さんはどうだろう? ピカソの「アヴィニョンの娘たち」が描かれたのはこの3年前、ピカソと同じくプリミティブアートに惹かれたのはありありと伺えるが、キュビズムの知的なアプローチで人体を歪めていったピカソに対し、マチスは音楽、リズムを現させる為に描いては消し描いては消しの画家の「視覚」のみで挑む。私がマチスに圧倒されるのはそこだ。そして色彩はというと、深い青、緑は「鮮やかな色」と言えても身体の赤茶は、絵を描かれるとわかるだろうがこれはとても重い色。それが「ダンス」するのだ! ドイツ表現派のキルヒナーが好むような色合わせで、彼の絵では断然重くなる(彼の世界がそうだからそれはそれでいいのだが)。つまり私はこの絵が本当の傑作(ほぼ奇跡)だと思っている。

そして「叫び」、これは大変なことになりそうですが、、、本当の「叫び」はオスロ美術館の油彩(写真上)。財団に来ている、美術館から一度盗まれたという曰く付きのテンペラ画の「叫び」(写真下)は、黒い特別スペースに入れられて「御開帳」されていますが、「これは大したものではない」の一言でおしまい(笑)




中学校で、今でも覚えています、ムンクの叫びを画集で見つけた友達が「すごい絵がある!」と見せに来てくれた。勿論「すごいな〜」と思ったが、実はその頃でもマチスのダンスの方が上だと思っていた。今回何十年ぶりに「本物」と再会してどうなるかと思ったけれど、飽きっぽい私には珍しくこのダンスは「一度惚れたら一生モノ」のようです。(女性だったら良かったのに!?)
 
7月6日まで。財団の展覧会サイト
* 注:「情熱の鍵」と訳しましたが、冠詞の含みを入れると「ある情熱の幾つかの鍵」となるでしょうか

追記:11月にあんなにきれいだった建物11/2紹介、今回は「叫び」ではないが、夕暮れ時はどうだろうかと夜11時まで開館の金曜日の宵に行った。ちょっと曇りがちなこともあったかもしれないが、結局はスッキリと青空が背景の方が冴えるように思われる。その上ガラスの外壁も少し汚れて来ているし、そして白い壁には金属接合部分からは錆のような色の流れた跡までついている!!!どうなるのだろう。掃除難かしそうだが、、、

私のブログが難解などとは到底思えないが、二つのダンス、二つの叫びが来ているのではありませんのでくれぐれもお間違えにならないように。

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